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2015年3月21日 (土)

鎌田實の一日一冊(235)

「認知の母にキッスされ」(ねじめ正一著、中央公論新社)


詩人でもあるねじめ正一さんが、認知症の母と向きあって書いた小説。
小説だが、実に参考になる本である。
認知症の本には、精神科医や看護師、家族などが書いた本がたくさん出ており、
ぼくも読んできたが、そのなかでも出色の本である。
妄想をもってしまう母みどりさんの言葉が実に生々しい。
心の蓋が取れて、深層心理が見えるようだ。
まじめで一生懸命生きてきたお母さんが、ちょっと粋なおじいちゃんに心が傾いたりして、
とても人間ぽくておもしろい。

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お母さんの言葉で、すごいのがあった。
「マンゲツガアマリウツクシイノデ、セシマショウゾウサンニ、アノマンゲツッテイクラクライスルノデスカトキイタラ、
マンゲツハミンナノモノデスカラ、ネダンハツケラレマセントイウカラ、ワタシハハラガタッテキテ、ソンナコトハワカッテイルノ、
デモイクラナノ? イクラナノ? ッタラ、1000マンエン、トコタエテクレタ」
満月はみんなのものだから、値段はつけられないなんて、なるほどなと思ってしまう。
新鮮な言葉が並び、お母さんは詩人だなと思う。

悲しくて、しんどくて、それでいてちょっとくすっと笑ってしまう。
生きるということは、これでいいのかなと思った。
最後は認知症になっても、抑えられていた蓋が取れて自由になるんだと思えば、怖いものではないなと思った。
ちょっと勉強になる本だった。

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