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2015年4月

2015年4月30日 (木)

ISのある世界を考える(22)

「イスラム国」に忠誠を誓っているボコハラムが暴れるナイジェリアで、
訳のわからない病気が発生した。
頭痛や意識障害がおき、発症から24時間で亡くなる人も多い。
すでに23人が発症し18人が亡くなっているという。
エボラウイルスは今のところ検出されていない。
急性脳炎を起こしている可能性が高いが、原因はまったくわからない。
メタノールが関係しているという説もあり、感染症かどうかも、今のところ不明。

1504283fullsizerender 花が咲く諏訪中央病院の庭

エボラ出血熱が多発したシエラレオネやリベリアなどの国は、
貧困や政情不安という状況が感染症の蔓延を助けている。
今回も、ボコハラムが暴れているナイジェリアで、なぞの感染症が起これば、急激に広がる可能性がある。
健康を保ち、感染症などから身を守るには、政情の安定や平和がなくてはならない。
「なぞの病気」、とても怖い。

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2015年4月29日 (水)

聴診器でテロと闘う(9)

難民キャンプでの診察を終え、アルビルを脱出した4月17日、アルビルで爆弾テロがあった。
アメリカ総領事館とアルビルの警察があるところで、どちらを狙ったのかわからない。
5人が死亡し、十数人が重傷を負った。
おそらく「イスラム国」の犯行と推測される。
首都バグダッドも大変なことになっている。
「イスラム国」とイラク政府の激しい攻防戦がラマディで続いている。
「イスラム国」が盛り返すなか、避難民が十万人バグダッドに押し寄せてきているのだ。
バグダッドは、「イスラム国」の戦闘員が紛れ込んだら致命傷になることを危惧して、避難民を入れようとしていない。
避難民たちは、バグダッド近郊で、野営せざるを得ない状態に陥っている。

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すぐにJIM-NETの現地スタッフのアブサイードに連絡をとり、
食糧などの支援物質を届けるよう指示した。
避難している人たちにどう希望をもってもらえるか、大事なところだ。
                 ◇
『「イスラム国」よ』(河出書房新社)の5000部の増刷が決まりました。
三省堂書店神保町本店では、文学・ノンフィクション部門で売り上げ2位に、
『1%の力』も5位にランクされました。
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どちらも印税は全額寄付し、シリアやイラクの難民支援に充てています。
まだお買い求めでない方は、ご協力をお願いいたします。

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2015年4月28日 (火)

「奇跡のひと」と対談

「奇跡の人」といえば、ヘレン・ケラーが三重苦を克服する感動的な物語だ。
その同時代、生まれたときから見えない、聞こえないという障がいをもつ少女が実在した。
「奇跡のひと マリーとマルグリット」は、目と耳に障害をもつ少女マリーと、彼女の言葉を教える修道女マルグリットを描いた映画だ。

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ヘレン・ケラーは病気で、途中から三重苦となったので、
おそらく言葉の存在を理解していたのだと思う。
それに対して、マリーは言葉の存在そのものがわからなかったのではないか。
ひとつの言葉を覚えるのに、ものすごく苦労する。
雪のシーンは感動的だ。
ふんわり降ってくる雪に、マリーは感触で雪を感じる。
臭いと感触が彼女のすべて。
彼女が大事にしていたナイフにも、「ナイフ」という言葉があることを、苦労して知る。
そして、「リンゴ」や「ニンジン」といった言葉も覚えていく。
野生の女の子マリーが徐々に変わっていく。
「こんにちは」という、ものではない言葉があることにも気づく。
大切な人が亡くなり、「死」という言葉も知っていくのだ。

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少女マリーを演じたアリア―ナ・リヴォアールと対談した。
彼女自身が、聾だ。
手話をフランス語にし、さらに日本語に通訳してもらった。
とても大変なコミュニケーションだが、実はそれほど大変ではなかった。
彼女の目を見て、体の動きや表情をみていると、フランス語がわからないぼくでも、
彼女が言おうとしていることが、わかるのだ。
そのことを彼女に伝えると、すごく喜んだ。
人間は言葉を超えることができるのだ。

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彼女は好奇心いっぱいで、必死にぼくのことを聞き出そうとする。
イラクの難民キャンプの話をすると、目を輝かせた。
ぼくがインタビュアーのはずが、いつの間にか彼女がインタビュアーみたいになった。
周囲の人がぼくのことを「日本に来てはじめて興味をもった人間」と言ったが、とても光栄なことだ。
対談が終わると、彼女がハグをし、「日本に来てよかった」と言った。
アリアーナ・リヴォアールは20歳。
すてきな女の子だ。
ぜひ、「奇跡のひと マリーとマルグリット」を見てください。
6/6~シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。

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2015年4月27日 (月)

お知らせ

■4月28日(火)22:00~23:05
NHK第一ラジオ「NHKジャーナル」
http://www.nhk.or.jp/r1/journal/
22:30から10分ほど『「イスラム国」よ』をテーマに話をします。
全国放送です。
■4月28日(火)19:00~
株式会社ケアネット
http://www.carenet.com/
インターネットライブ番組(生放送)で
「聴診器でテロと戦う~鎌田實が語るイスラム国~」
と題して1時間、話をします。
PCでもスマホからでもチェックできます。
facebookページもご覧ください。
見逃した方もケアネット.comのアーカイブから
見ることができます。
■5月1日(金)5.30~
TBSラジオ「生島ヒロシのおはよう一直線」に出演します。
http://www.tbs.co.jp/radio/ohayou/
ぜひ、チェックしてみてください。

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イラク現地報告会

この4月に鎌田實JIM-NET代表理事と佐藤真紀JIM-NET事務局長が
イラク現地を訪れ、緊急救援活動を行いました。
イラクはいま、どうなっているのか。
ゲストにNHK報道部国際部をお迎えし、最新の状況をお伝えします。

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イラク現地報告会

日時:2015年5月2日(土)14:00~
※変更の可能性があります。
場所:渋谷区立千駄ヶ谷区民会館 集会室
   渋谷区神宮前1-1-10 JR原宿駅竹下口徒歩8分
 
資料代:500円(JIM-NETサポーターは無料)
登壇者:太 勇次郎(NHK報道局国際部副部長)
     鎌田 實(JIM-NET代表理事・医師)
    佐藤真紀(JIM-NET事務局長)
主催:特定非営利活動法人日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)
 
予約・申し込み 080-4837-4015
E-mail info-jim@jim-net.net

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聴診器でテロと闘う(8)

難民キャンプをまわって気づくことは、医療の手がまったく入っていないところと、医療の手が入っているところの差が激しいということだ。
さらに驚くのは、医療が入っているところは、薬の量が非常に多い。
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日本は、世界有数の長寿王国だが、こんなに多くの薬を出さない。
薬を出しながら、生活習慣を変更するにように指導する。
コミュニケーションの道具として薬を出すこともある。
薬を減らすための努力が必要だと思うーー。
イラクのドクターにこんなことを話した。
ナガム先生は理解してくれ、
これから難民キャンプで、減塩に注意し、ウォーキングなども行っていこうという。

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40年前、長野でやってきた健康づくり運動は、
今、難民キャンプでも活かされる。
難民キャンプの人たちの健康づくりのために、繰り返し訴えていきたいと思う。

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2015年4月26日 (日)

聴診器でテロと闘う(7)

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国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、「赤ちゃん」にやさしいを推進し、母乳で育てることをすすめている。
そのため、ミルクは配られない。
しかし、難民キャンプの状況をみると、母乳が出ていないお母さんも多い。
精神的なショックが大きいことも、影響しているのだろうか。

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難民キャンプにミルクを配ると、われ先に得ようとする光景がみられる。
だが、ミルクにも種類があり、赤ちゃんの状態に合ったものでなければならない。
ぼくたちは、難民キャンプに行く前に先のりをして状況を聞き取り、
母乳の出がよくないお母さんや、発育のよくない赤ちゃんがいるかどうかを確認してから、
必要なミルクを持っていくようにしている。

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ミルクには3種類あり、子どもの栄養状態に合ったものを提供するために、
ミルクを渡す前に診察もしている。
さらに、日本から来た国井看護師や、JIM-NETスタッフのリーム看護師がミルクの溶かし方や飲ませ方などを教えている。
ミルクの溶かし方を守っていないお母さんがいたからだ。
支援は、ただモノを配ればいいというものではない。
それぞれの健康状態を見極め、その状態や周囲の状況に合わせて、
それぞれがきちんと使いこなせるように指導していくことが大切なのだ。

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2015年4月25日 (土)

新しい諏訪中央病院

諏訪中央病院は増改築事業を行っている。
すべてが終わるまではあと2年かかるが、着々と新しい病棟もできている。
4月の初旬には、市民に一般公開された。

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5階の緩和ケア病棟は、スペースが広くなり気持ちがいい。
ここで、がんの患者さんがあたたかなケアを受けるために、スタッフも拡充。
緩和ケアの専門医や、ホスピス患者さんを内科的にも精神科的にも診る腫瘍内科医もそろった。
若いドクターが日本中から集まる病院になり、
NHKのドクターGに出演している、日本でも有数の指導医・山中先生も来てくれ、教育体制も充実する。

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画像を的確に見ながら内視鏡手術にも対応できるような手術室や、
多様なニーズにこたえられるICUも出来上がった。
救急医療や高度医療を充実させながら、さらにあたたかな医療が展開されていくだろう。
外来も入院もぱんぱんだったが、この増改築により、より多くの患者さんに質の高い医療を提供できるうになる。
諏訪中央病院は、確かに前進している。

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2015年4月24日 (金)

聴診器でテロと闘う(6)

25歳の青年ラードさんは、イラクからシリア一帯にかけての最大の部族といわれるジャボリー族の若者である。
スンニ派で、ハシャードシャリ―という民兵組織に入った。
戦いの初めの日、ISの戦闘員に撃たれた。
弾は腹部と足を貫通。
足は骨折し、手術が行われた。
腹部は腸が損傷し、腹膜炎を予防するため、人工肛門がつけらていた。

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日本人医師が来たということで、彼は期待していたようだ。
しかし、病状を説明すると、彼の表情は曇った。
人工肛門は、立ててトイレに行けるようになれば、いつでも取ることができる。
問題は足。大腿神経が完全に切れているようで、足の内側部がまったく動かない。
見込はよくないと話すと、若者は悲しそうな顔をした。

ぼくは彼にこう言った。

「リハビリをして関節を柔らかくすれば、長下肢装具を着けて歩ける。
足はひきずるかもしれないが、歩くことはできる。
希望を捨ててはダメだ」
この部族からは400人の若者が、ISとの闘いに出ているという。
中東は複雑だ。
宗教、宗派、部族の違いで、自分たちを守るために闘わなければならない。
暴力と暴力のぶつかり合いのなかで、医療は希望の光になる。
平和への一歩になるよう、巡回診療を続けようと思う。

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2015年4月23日 (木)

聴診器でテロと闘う(5)

イラク西部のアンバール州、カスマ山の道路際にできた難民キャンプ。
草地に入り込み、勝手にできたキャンプであるため、支援が入らない。
ここに、障害のある子が、いすに座ってぐたっとしていた。
熱射病になるにのではないかと心配になった。
おむつを寄付し、食事も十分ではないため、ここではミルクも配った。
そして、診察してあるいた。
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25歳の女性は両手の関節が腫れて痛くて動かないという。
慢性的な関節リウマチだ。
薬である程度コントロールできるが、完全に治ることはないと説明すると、ボロボロと泣き出した。
関節の痛みが取れ、関節が崩壊しないように、薬を考えるから心配ないと話すと、
少しほっとしたような顔をしてくれた。

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とにかく糖尿病と高血圧が多い。
なんとかこの人たちに医療を届け、薬を届けながら、生活の仕方を見直してもらいたい。
健康のために散歩をすること。
そのことひとつでも、命に対する意識が変わるはずだ。
自分の命や健康を大事にしようと思って、散歩する。
自分の命や健康を大事にできると、家族やほかの人の命や健康も大事になる。
違う宗派の人間の命や健康も大事に思えるだろう。
散歩が、他者への深い思いの第一歩になるのだ。
命はみんな大事なのだということから始めなければ、イスラムには平和はこないだろう。
本当の平和のために、聴診器でテロと闘う決意をますます強くした。

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2015年4月22日 (水)

聴診器でテロと闘う(4)

ドホークのヤジディ教徒の難民キャンプに行った。
山地に5箇所ほどの小さなキャンプが点在している。
ここに、500個の卵と、1か月分の飲み水を給水することを約束した。
ヤジディ教の人たちは、イースターのお祭りのように卵に色づけをして新年を祝う。
子どもたちは卵と卵をぶつけっこをしながら、どちらが強いかを競う遊びをしていた。
負けるとぐちぐちゃになったゆで卵を食べるのだが、負けても、うれしそうに、おいしそうに食べる。
卵一個でみんなが幸せな顔になる。

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ヤジディ教徒は2000人ほど人質にとられているという。
ファルージャには奴隷市場があって、人が売り買いされている。
ヤジディ教徒の国会議員、ビアン・ダヒルさんのお宅に呼ばれた。
彼女はイラク国会で演説するだけでなく、アメリカに呼ばれて演説。
ヤジディ教徒の女性は暴行され、子どもは売買されていると訴えた。
アメリカが昨年8月、ISの拠点を空爆するきっかけとなったのは、
ISに襲撃された何千人ものヤジディ教徒がシンジャール山に水も持たずに逃げ、重大な人権問題になったことだったといわれる。
大事なことは、イスラム厳格派や原理主義者がもう少し大人になって、他宗教の自由を認めることである。
イスラムのスンニ派の考えだけが正しいと思わないことである。

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この村に給水車が着いたときには、拍手が起こった。
キャンプの人たちは喜んで、お茶を振る舞ってくれた。
ただし、その水は以前から使っていたもの。
せっかくのお茶、沸騰しているから大丈夫だろうと腹をくくり、
友情の証として飲んだが、なんともいえない臭いと味がした。
今まで、こんな水を飲んでいたのかと思うと切なくなった。
給水車をまわして本当によかったと思う。

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2015年4月21日 (火)

新宿駆け込み餃子

出所者やひきこもりの社会復帰を支援する居酒屋が4/24、歌舞伎町にオープンする。
その名も、「新宿駆け込み餃子」。
いい名前だ。
公益社団法人「日本駆け込み寺」の玄秀盛さん、弁護士の堀田力さんらが企画、応援。
餃子やおでん、馬刺しなどを出す居酒屋だ。

新宿駆け込み餃子の公式HPはこちら↓

出所者の再犯を防ぐには、雇用支援はとても大切。
つまずいた人を排除する社会ではなく、
つまずいた人の社会復帰に手を差し伸べられる社会になってもらいたい。
この「新宿駆け込み餃子」が成功し、何軒かチェーンのように広がっていくといいな。
一度、ぼくも食べに行きたいと思っている。

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2015年4月20日 (月)

聴診器でテロと闘う(3)

10日ほど前、ISに捕らわれていた240人近いヤジディ教徒が解放されたというニュースが広がった。
そのうちの40人と会って話をすることができた。
ドホークの難民キャンプで、ぼくたちと協力しあっている現地の元公務員でボランティアの女性ハナウさんが、
診察もかねて、話を聞けるように計らってくれた。

1504165fullsizerender_2 ISから逃れてきたヤジティ教の人たちがたどり着いた難民キャンプ

解放された約40人のヤジディ教徒の人たちは、一つの部屋に集まっていた。
その半数は子どもだ。
若者、そして、80歳の高齢者もいた。
ISに拘束されているとき、どんなことがあったのか。
「暴力がひどく、言うことを聞かないと殴られた」
「子どもたちは、無理やりイスラム教の信仰告白をさせられ、コーランを覚えせられた」

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若者が無理やり戦闘員にさせられたり、性奴隷にされているという話をここでも聞いた。

2人の若者は「ISの戦闘員にされそうになった」
若い女性は、「奴隷として売られそうになったため、どんなことがあっても逃げようと考えた」と言う。
警護が少年兵になったとき、隙を見て山へ逃げ出した。
三日三晩、山の中を逃げ切って、クルド自治政府軍までたどり着き助かった。
まだ2000人のヤジディ教徒が拘束されているという。

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25歳の女性は、昨日、妹を連れて、ISから逃げてきたばかりだった。
シリアのラッカに売れられ、ISの戦闘員の家族の奴隷になった。
姪を、自分の子どもと偽って守ろうとした。
わずかな隙をついてトルコに脱出し、トルコでヤジディ教徒に訴えて、
このイラクの難民キャンプにたどり着いたという。
まだ恐怖におののいている顔をしていた。
ISはとんでもない行いをしている。

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2015年4月19日 (日)

聴診器でテロと闘う(2)

日本クルド友好協会の会長と食事をし、いろんな話をした。

――なぜ、クルドはいち早く治安をよくしたのか、と尋ねた。
「自分たちはいつも迫害を受けて生きている。
イラク、トルコ、シリア、イランを中心に約5000万人の民がいるが、国家がない。
自分たちはいつか国家をつくりたい。
フセインの時代は、迫害を受け、毒ガス攻撃をされた。
そのため、自分で自分を守るため、自治政府軍を強化してきた。
それが今のペシュメルガである」
――いつか独立する気はあるのか?
「たぶん、あると思う」(ニコリと笑う)

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――モスルへの攻撃は、いつになりそうか?
「たぶん、2か月後」
――クルド自治政府軍も、モスル攻撃に加わるのか?
「もちろん。イラク政府軍よりも、ペシュメルガのほうが強い。
ペュメルガがしっかり働かなけければ、ISを放り出すことはできない」と片目をつぶる。
「クルドが強いのは、クルドにいる人たちみんなを大事するからだ。
イスラム教のスンニ派とシーア派も戦わない。
キリスト教徒も歓迎する。
ヤジディ教徒も大事にしている」

たしかにそうである。
クルド自治区の難民キャンプをまわっていると、ヤジディ教徒の難民に対しても、
キリスト教徒の難民に対しても、それなりの努力をして支援しようとしている。
クルドは柔軟である。
イラク戦争開始のとき、アメリカと協力体制を組んだと批判された。
生き抜くためにはどんなことでもする人たちなのだろう。
しかし、この人たちが本気で平和を考えていることも間違いない。
ISを倒したいと、本気で考えている。
それは、クルド人が大変な迫害を受けているからである。

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2015年4月18日 (土)

聴診器でテロと闘う(1)

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4月8日からイラクの難民キャンプの巡回診療に入った。
その様子を紹介していこうと思う。
                             ◇
15日、アルビルから車で3時間かけてドホークへ、さらに2時間かけてシリア国境沿いのある村に入った。
川が流れており、その向こうはシリアである。
この村の難民キャンプを訪ねるのが目的だった。
この難民キャンプには、診療所がない。
移動診療車も行っていない。
我々が訪ねることを知ると、JIM-NETが長年、クルド人自治区で、大きな支援をしてきたことを評価してくれ、ドホークの保健局のドクターと看護師2人が同乗することなった。
ドホークには、かなりしっかりしたネットワークがある。
プライマリケアセンターがあり、難民救済にも力を注いている。
同行した若いドクターも、週3日、難民キャンプの診療所で仕事をしているという。
しかし、保健局はこの村の難民キャンプに関しては認知していなかったようだ。
「日本人がこういうところを見つけるって、すごい」と感心された。

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難民キャンプに着き、診察を行った。
2人の高齢女性。
一人は高血圧で、もう一人は糖尿病だった。
ぼくは、二人に、塩分を減らすこと、体重を5キロ減らすこと、野菜を多く食べよう、と話した。
神妙に話を聞いていた2人は、ぼくの話の後、こう言った。
「それで、私たちに何をくれるの?」
大笑いになった。
長野県でやるような健康づくり運動は、イラク人の感性に合わないようである。

1504164fullsizerender テントに日の丸。日本からの支援が入っている

でも、ぼくはあきらめない。
薬を配ればいいという地域医療は、墓穴を掘ると思っている。
今、薬が足りないので、薬を提供することはとても大事だ。
薬を提供することで、「自分たちは見捨てられていない」と感じることができる。
しかし、そこから一歩前進して、少しでも自分の健康をよくしようとする意識は、その場の薬より意味が大きい。
「聴診器でテロと闘う」とは、単に注射や薬を多用するということではない。
その人の生活を見直す「行動変容」を促す、本当の意味での医療支援を難民キャンプで行いたいと思っている。

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2015年4月17日 (金)

アハメド君が英語の教科書に

高校の英語の教科書「WORLD TREK」(桐原書店)に、
「アハメドくんのいのちのリレー」が収録されている。
高校生の英語の勉強に役立ててもらるのはうれしい。

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「アハメドくんのいのちのリレー」(集英社)という絵本は、まず日本語で出版し、
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の清田先生の応援により、英語、アラビア語、ヘブライ語という3か国語バージョンが作られた。
パレスチナとイスラエルに平和が訪れてほしいという願いを込めてつくったので、
その思いが、高校生に伝わるとうれしい。

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2015年4月16日 (木)

ISのある世界を考える(21)

5年後、東京オリンピック・パラリンピックが開催される。
世界中からたくさんの人たちに来てもらわなければならない。
どんなにテロ対策を講じて、水際の警戒レベルを上げたとしても、
完璧に防御する方法はないと考えたほうがいい。
東京オリンピック・パラリンピックを無事に終わらせるためには、
日本が非軍事で、すべての戦争に加担していないという旗色を明確に示すことが大事だろう。
そして、人道支援を世界の先頭を走ってやり続けることだ。

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日本卓球協会は、クウェートへの遠征を中止した。
アラブへ行くのが怖いと考えてのこの行動は軽率である。
観光立国を目指し、オリンピック・パラリンピックを成功せさようとするならば、
アラブや、16億人のイスラム教徒たちが日本に来てくれることが大事なのである。
                     ◇
『「イスラム国」よ』(河出書房新社)にそのことを書いた。
この本を4冊も買ってくれた関西の女性から手紙が来た。
感動したので、いろんな人に勧めてくれているという。
関西の紀伊国屋で立ち読みしている人に話しかけると、高野山でのぼくの講演を聞いてくれた人で、買おうか迷っていると答えたという。
この本は、印税がISにより日常を奪われた子どもたちの支援のために使われるので、「ぜひ、買って」と勧めてくれたとか。
さらに、『1%の力』(河出書房新社)も同様に印税が人道支援のために使われるので、合わせて勧めたら、
二冊とも買って行かれたとか(笑)。
ありがたいことだ。
こうした読者がいるおかげで、『「イスラム国」よ』はもうすぐ増刷の可能性が出てきた。
今後とも、応援をよろしくお願いします。

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2015年4月15日 (水)

絆と生きがい

南三陸へ行ったとき、ある男性に会った。
この男性は、東日本大震災の津波で家を流されたが、
そのとき山のほうのデイサービスに行っていたため、命は助かった。
男性は、車いす生活をしている。
その後の4年間、仮設住宅で暮らしたが、この暮らしが大変だった。
やっとの思いで娘さん夫婦がローンを組み、家を新築することになった。
その家を訪ねていった。
彼は、こう言う。
「仮設での生活はとてもつらかったけれど、いつも心を強くもつように努力した」
「昔の集落の仲間がバラバラになったので、仮設での人間関係を築こうとした。
男は人間関係が不器用な人が多いので、川柳の趣味の会に出ることにした」

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ぼくは長野県で健康づくり運動に取り組んできたが、
もっとも健康寿命に貢献しているのは、就労率が高いことと、生きがいをもつことだった。
また、絆のあるコミュニティーでの生活は、血管がつまる病気を減らすともいわれている。
仮設での生活の課題はたくさんあるが、健康という意味では、生きがいをどう持ち続けるか、絆をどう築くかということがポイントになる。
彼はまさに、この二つを持ち続けたことで、4年間の苦難を乗り越えたように思う。
「仮設愛 つなぎし絆 いつまでも」
彼の川柳だ。
仮設の生活にかぎらず、生きるために大切なヒントが見えてくる。

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2015年4月14日 (火)

ご支援ありがとうございます

今年のJIM-NETのチョコ募金は、例年になく早く売り切れました。
10年以上、アラブ世界の平和を構築するため、
地道に、病気の子どもたちや戦争に傷ついた子どもたちを助ける活動を続けてきたことが評価されたのだと自負しています。
2016年度も、本年12月初めよりチョコ募金を開始します。

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非道な暴力やテロ行為の連鎖を断ち切るには、人道的な支援が第一と信じて、
これからもイラクやヨルダンに足繁く通いながら、活動を続けていきます。

今後ともご支援のほど、よろしくお願いいたします。

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2015年4月13日 (月)

ISのある世界を考える⑳

アルビルのスタッフから連絡があった。
ISのメンバー10人が、アルビルへの侵入を企てたとして、クルド情報部に逮捕されたという。
ISは、バルダーシュというアルビルとモスルの中間に位置する地域の軍事訓練施設に入り、
軍事作戦をかく乱する目的があったようだ。

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現在、アルビルではモスル奪還のために、1万人が軍事訓練を受けている。
ティクリートは、形の上ではイラク政府軍が奪還したことになっているが、
ティクリートに潜伏するISとの泥沼の戦いはまだまだ続くと思う。
シーア派最高権威のシスターニ師は、シーア派の軍隊が過剰防衛でスンニ派に危害を加えないようにと発言をしている。
シーア派にも、スンニ派にも、大人の対応が求められる。
                    ◇
『「イスラム国」よ』(河出書房新社)の印税は、支援のために使われます。
ぜひ、応援をお願いいたします。

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2015年4月12日 (日)

ISのある世界を考える⑲

イエメンが大変な状況に陥っている。
サウジアラビアを中心にしたスンニ派の連合軍が、シーア派のフーシが実効支配する地域に
激しい空爆を行っている。
イエメンのハディ大統領はサウジアラビアに逃げ、亡命政府となった。
ハディ政権の軍隊は弱く、地上戦で闘う能力がないという。
しかも、前大統領のサレハがイエメンの空軍をコントロールしており、弾道ミサイルを100発以上保有しているとか。
このサレハがフーシと結託している。

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ナイジェリアのボコ・ハラムのテロもいよいよ過激になり、尋常ではなくなった。
村を焼きつくし、ナイジェリアで150万人の家を奪い、20万人の難民をつくりだしている。
ボコ・ハラムはISに忠誠を誓っている。
このナイジェリアは、実はアフリカでいちばん石油が出る。。
リビアも石油が出る。
イエメン、ソマリア、リビア、ナイジェリアで過激派組織が暴れ、無政府状態に陥らせているのは、ISの思うつぼである。

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2015年4月11日 (土)

鎌田劇場へようこそ!(204)

「ザ・トライブ」
全編手話のみ、字幕も吹き替えもない。
ウクライナの新鋭監督スラボシュビツキーによる作品。
聾唖学校の寄宿学校が舞台。
そこは力の世界だ。
「トライブ」とは「族」という意味。
日本で言えば、「組」みたいなものだ。
族の資金源は、売春だ。
主人公の少年も暴力の洗礼を受ける。
徐々に頭角を現し、トラック運転手に売春を持ちかける役をもらう。
しかし、リーダーの愛人にほれてしまう。
少女は愛なんて信じていなかった。
イタリアへ行くことを夢みていた。
リーダーは売春をしていた少女たちのパスポートをつくるが・・・。
最後が激しすぎる。
少年の怒りが爆発するのである。

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言葉がない分だけ、見るものを感じさせ、考えされる。
雪が降る音なども、伝わってくるのである。
人工流産の光景などは、あまり長回しでみたいとは思わなかった。
宿舎という特別な世界で生き抜くために、こうせざるを得なかったという思いと、
生き抜くためにここまでできるのかという驚き。
しかし、そのなかにすべてを超えていく愛が生まれる。
これが人間だ、とは思うが、もっと愛に焦点を当てれば、好きな映画になったと思う。
この映画は、暴力に焦点を当てている。
チャレンジングな映画である。
監督は、この作品で注目を浴びた。
将来、鬼才といわれる名監督になれるかもしれない。
映画好きな方にはおすすすめ。

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2015年4月10日 (金)

鎌田實の一日一冊(236)

「教団X」(中村文則著、集英社)
560ページを超す大作。
人間の心の不思議さをダイナミックな構想力で描いている。
136億年前に宇宙が生まれたビッグ・ヒストリーを使いながら、なぜ神が生まれてくるか、
中村流の構想で描くことに見事に成功している。
二つの小さな宗教集団の話である。
一方は宗教とはいえないような緩い集まりで、哲学的な会話がなされていく。
もう一方は、性の解放をし、オカルトに陥っていき、世界のテロリスト集団とつながっていく。

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一人ひとりの小さな闇と、国家という邪悪な闇が連動し、爆発し、敵対していく。
遺伝子や視床下部、人間の欲望の話など、読み切るのに壁のように立ちはだかる箇所が何箇所かあるが、
分かりにくくても二度三度読んでいくと、奥が深いことがかわる。
人間の邪悪な心がダイナミックに展開されながら、世界や国家の話になっていくのだが、
エンディングがちょっと貧弱であった。
もっと爆発的な終わり方でもよかった気がしないではない。
中村文学は世界で注目され、読まれている。
この人の構想のダイナミックさは、世界が受け入れているのだろう。

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2015年4月 9日 (木)

鎌田劇場へようこそ!(203)

「セッション」
これはすごい。
アカデミー賞3部門で受賞。
助演男優賞のJ・K・シモンズが狂気の好演。
全米一のジャズチームをつくるために、鬼教師が鬼気迫るレッスンを行う。
うつ病で自殺した仲間もいる。
とんでもない才能が、とんでもなくクレイジーなレッスンをするのであるが、
最後の10分、心が熱くなってくる。
この映画、すごい。

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監督・脚本は28歳のデイミアン・チャゼル。
高校時代にドラマーを目指した経験が脚本に生きているという。
言葉を超えていく音楽のすごさ。
「週刊ポスト」4/22発売号の連載にも、ゴールデンウィークおすすめの映画の一つとして紹介した。

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2015年4月 8日 (水)

鎌田劇場へようこそ!(202)

「白河夜船」

吉本ばななの同名小説の映画化で、ばななワールドを見事に表現している。
売れっ子女優の安藤サクラが主人公を好演している。
妻が植物状態になった男と恋愛する主人公。
親友の女の子が何だかわからない死に方をする。
彼女は、さびしく生きている人たちの添い寝する「添い寝ビジネス」をしていた。
たくさんの人たちの添い寝をしながら、その夢にのみこまれていく不思議さが描かれていく。

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主人公は、親友を失ったことから、自分がずっと寝ていたいような感覚に陥っていく。
いくつも夢をみる。
夢のなかで、死んだ親友の女の子と語りながら、不倫相手の男性との夢もみる。
夢のなかで夢をみているのだ。
もうこの世にはいない人の夢をみながら、まるで未来を予見するように現在の夢をみている。
夢が折り重なる不思議な世界が展開する。

吉本ばななが好きな人は必見。
映画好きにもこたえられないと思う。
年に一回楽しい映画をみたいという人には、ちょっと重すぎるかも。

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2015年4月 7日 (火)

ISのある世界を考える⑱

ISから大部分を奪還したイラクのティクリート。
だが、シーア派のイランの息のかかった民兵が活躍していることは、禍根を残すだろう。
この後、モスルの戦いが行われると、
おそらくISは、徹底的にダメージを受ける前にシリアに脱出するだろう。
シリアに脱出したISを完全に駆逐するのは難しい。

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イエメンが無政府状態になりかかっている。
ここでも、シーア派とスンニ派の血で血を洗う戦いになってきた。
スンニ派のサウジアラビアが隣にある。
シーア派のフーシ派が実効支配をはじめ、それに対して、スンニ派のISが自爆テロを行ったりしている。
アメリカ軍も撤退した。
イエメンは内戦状態に入る。
これではISの思うつぼである。
リビアも、イエメンも、そしてボコ・ハラムのいるナイジェリアも、
シリアと同じような内戦状態になり、それぞれがISへの忠誠を宣言している。
いよいよ世界は大変な状況に入ってきた。

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2015年4月 6日 (月)

ISのある世界を考える⑰

ISが制圧するモスルで、クルド人防衛組織ペシュメルガの兵士が殺害された。
多くのクルド人はISに対して抵抗している。
しかし、クルド人の若者のなかにも、ISの戦闘員になっている者もいる。
むなしい。

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200万人都市のモスルはいよいよ危なくなってきた。
ISの兵士の家族約450家族が、モスルからシリアやトルコなどに避難したというニュースが伝わっている。
この地域一帯の4部族が、ISと闘うために、イラク政府軍の戦列に加わるという表明も出されたと聞く。
モスルでの戦いが始まるのも、秒読み段階だ。
ここで戦いが始まれば、多くの子どもや女性たちが被害を受ける。
難民や避難民がたくさん出なければいいが。
残虐なリンチが行われないことを祈るばかりだ。

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2015年4月 5日 (日)

鎌田劇場へようこそ!(201)

「グッド・ライ いちばん優しい嘘」
人間は残酷な生き物である。
自分が生きるために、少しでもいい生活をするために、他者を傷つけてしまうことがある。
スーダンでは20年間、内戦が繰り広げられた。
200万人が命を落とし、400万人が国内避難民となり、50万人がエチオピアやケニアに難民として逃れた。
両親を殺された子どもたちが、子どもだけでエチオピアへと向かう。
しかし、エチオピア国境に兵士がいると聞かされ、方向を変えてケニアに向かう。
大きな川を渡り、水がない、食事がないなかで、どんなことをしても生き延びようとする子どもたち。
ようやくケニアの難民キャンプにたどり着く。
さらに長い時間がかかったが、アメリカで3600人の難民の受け入れが決まり、子どもたちはアメリカに行くことになった。
この難民の子どもたちを「ロスト・ボーイズ」と呼んだ。迷い子である。
日本でも、ミャンマーの難民を2010~14年まで86人受け入れているが、ほそぼそである。
アメリカはあまり好きな国ではないが、難民に対しては寛容だ。

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リース・ウィザースプーン主演。
コンゴ内戦のむごたらしさをみると、人間の残虐性にうんざりするが、
この映画でみられる人間の愛や友情、そして最後にみせるいちばんやさしい嘘は実に感動的である。
人間は、共感することや相手の身になることができる。
自分がしてしまった罪や失敗を長い間忘れず、それにけじめをつけ、
自分を犠牲にし、人を救うことができる。
感動した。
何度も泣いた。
すばらしい映画だ。
4/17よりロードショー。

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2015年4月 4日 (土)

鎌田劇場へようこそ!(200)

「リトル・フォレスト 冬・春」
とてもきれいな映画。
若い女性たちに共感が広がっているという。
静かな映画であるが、やみくもに音楽が使われていないのがいい。

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野菜をつくり、食べることにこだわる。
丁寧につくり、おいしく食べる。
豊かな自然。
森の中の命が映画の画面いっぱいに広がる。
ベルリン国際映画祭でも高い評価を得たようだ。

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2015年4月 3日 (金)

辺野古移設問題

沖縄の普天間飛行場を、名護市の辺野古へ移設する問題で国と県が真っ向から対立している。
ぼくは、辺野古への移設作業を停止するよう主張してきた。
沖縄には何度も行っている。
普天間基地にも、辺野古の海岸にも行った。
実際に辺野古の海を見ると、美しいサンゴ礁を壊したくないという地元の人の思いがよくわかった。

1fullsizerender 春らしくなった南アルプス

菅官房長官と翁長知事との初会談が設けられるようだが、
このまま政府と知事の対話ができない状態が続くと、沖縄の怒りは大きく精鋭化し、
「沖縄独立論」などが出てくるだろう。
スペインやイギリスのある地域で、独立を巡り住民投票が行われたのは記憶に新しい。
真摯にコミュニケーションをとらないと大変なことになる。
まず、沖縄の人たちの気持ちを受け止め、共感することから始めなければならない。

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2015年4月 2日 (木)

鎌田劇場へようこそ!(199)

「あの日の声を探して」

アカデミー賞の五冠に輝いた「アーティスト」のアザナヴィシウス監督の心を揺さぶる傑作。
邪悪な戦争に壊されかかった弱い小さな心が、みずみずしく再生していく。
チェチェンで暮らす主人公の少年は、両親を銃殺されたショックで声を失う。
少年の存在感がとても大きい。
特に、少年が心を再生していくときに、たった一人で踊るダンスは感度的だ。
人間は捨てたもんじゃないと思わせてくれる。

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やはり戦争はどんなことがあっても止めさせなけばならない。
戦争は、普通の若者を鬼にもする。
人間はほんのわずかな差で、鬼にもなるし、信じられないくらい強くあたたかな心を持ち続けることもできる。
4月24日ロードショー。
見てがっかりしない映画だと思う。
感動。

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2015年4月 1日 (水)

鎌田劇場へようこそ!(198)

「ソロモンの偽証」(前篇)
おもしろい!
嘘をついているはずの人が嘘をついておらず、
嘘をついていないはずの人が嘘をついている。
人間は自分の都合のいいように物事を解釈していることがよくわかる。
嘘と真実の間にある微妙なものがあぶりだされてくる。

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邪悪な心をもっているのが人間だ。
人類はアフリカのサバンナで誕生し、脳を大きくしながら生き抜いてきた。
脳を大きくすることで、やっかいなことに複雑な心が生まれた。
善のなかに悪があり、悪のなかに善があるような、一色では語れない複雑さをもつようになってしまった。
「ソロモンの偽証」はそのことを如実に表す名作である。
息もつかせぬスピード感のある展開。
必見、必見。

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