聴診器でテロと闘う(16)
難民キャンプでは、生活の問題や心の問題を抱えた人たちがいる。
人間関係がギスギスして、ときには殴り合いになったりしているという。
ぼくの手を握る男性は、慢性呼吸不全を患っている。
たばこをやめるようにすすめると、「わかった」と言いながら、
胸からたばこを出して、ぼくに一本すすめて火をつけた。
「まず友だちになろう。たばこを吸った後、先生の言うことを聞く」
本当かどうかわからない。
うまいことを言われた。
だが、この人たちに無理強いはできない。
何度も、やわらかく言いながら、本人がその気になってくれるのを待つのが大事だと思っている。
厳しい病気も本当の話をしながら、できるだけきちんと治療が受けられるように軌道に乗せる。
慢性疾患の人には、薬を届け続ける。
その繰り返しが、必ず平和へつながると信じている。
わがままでいい、利己的な生き物でいいのだ。
しかし、人間は弱い生き物、一人では生きていけない。
自分だけでなく、家族や仲間の命も大切にしたい。
そして、他者の命を大切にすることが広がっていったとき、
必ず憎しみの連鎖は断ち切れる。
本来、宗教が、人間と人間の関係をつないでくれると思っていたが、
ときにその宗教がむき出しに原理に走る。
イスラム原理主義がまさにそうである。
そんなときこそ、命や健康という基本的な視点に立ち返ることが大事ではないか。
自分の健康を自分で守る、周りの人の健康にも目を向ける。
そうすることで、命に対する考え方が変わり、平和への考え方も育っていく。
民族、宗教、宗派を超えて理解し合うことで、この動乱の地にも、安寧が来るはずだ。
その日が来るまで、ぼくは聴診器でテロと闘おうと思っている。
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