鎌田實の一日一冊(240)
「ファミリー・シークレット」(柳美里著、講談社)
いま柳美里にはまっている。
どれもこれもおもしろいが、この作品は傑出している。
壮絶な人生である。
小さいころから「ばい菌」と呼ばれ、いじめられた。
実の父から暴力も受けた。
「嘘をついた」といって、裸にされて公園に放置されたこともあった。
「パパ死ね」と日記にも書いた。
そして、15年一緒に生活した東由多加から離れた後、好きな人との間に子どもができる。
その男は一緒に育てるつもりはなかった。
末期がんの東が、柳さんと子どもを育てようとする。
その子どもが小学生になり、柳さんは問う。
「なぜ、わたしは愛する我が子を叩くのか」
虐待してしまう自分を、この作品のなかで赤裸々に描いていく。
実話である。
自分をまな板の上の鯉にしながら、人間の心の奥にあるケモノを見事に描いていく。
避けていた父と26年ぶりに再会。
お互いの記憶を確かめ合うが、暴力について、まるで違うように捕えていたことがわかる。
苦しみのなかで苦しみ、悲しみのなかで苦しんだ柳美里。
柳さんから、本をいただいた。
「鎌田實さま 痛みを悼む」とサインがあった。
「痛みを悼む」とは、彼女の一連の苦しみや悲しみの奥底にあった言葉だと気づいた。
「痛みを悼む」とは、彼女の一連の苦しみや悲しみの奥底にあった言葉だと気づいた。
柳さんはうつ病と闘いながら、この作品を最後にこう締めくくる。
「わたしは、わたしを悼んでいる」
熱く、切なく、深い作品である。
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