聴診器でテロと闘う(31)
難民キャンプ訪問記⑧
ローリンの父親は、電気技師だった。
イラクに来てからは日雇いの仕事をしているが、なかなか仕事はない。
そこで、夏、難民キャンプ内でかき氷屋さんの業務を委託した。
暑いキャンプで、かき氷は大好評。
彼は、一躍有名人になった。
みんなローリンが病気であることを知っている。
そのローリンを日本人たちが助けていることも知っている。
その父親が、娘の病気を心配して、元気がないことも知っている。
その父親が、明るさを取り戻した。
人間が生きるために、働くことと愛する人がいることはとても大事なことだ。
JIM-NETのスタッフが冬場でも喜ばれるような仕事はないだろうか、と考えた。
アルビルのダウンタウンでは、夜になるとシャルガモという蕪のスープの屋台が出る。
アラブ風のおでんのようなものである。
この屋台をやろうということになった。
まずは、どうやって屋台をつくるか。
スタッフがどうしたら屋台をつくれるか聞いてあるいた。
おれたちはただ雇われているだけだから、どうやって作っているかわからないという答えが返ってきた。
どうやら、屋台の経営者がいるらしい。
ならば、鎌田が経営者になろうということになった。
いずれは、屋台を10台くらいもち、難民の人たちにやってもらう。
そこで売るものは、農園でつくろうという計画も広がった。
ぼくたちがお金を出し、週一回、キャンプ内で屋台を開く。
何を出すかということになったとき、ローリンの父親が「おれたちシリア人は蕪スープはあまり好きではない」と言い出した。
何が好きなんだと聞くと、
「フール」ソラマメの煮ものだという。
では、好きなものをやってみようという話になった。
キャンプで屋台を開く日以外は、外で屋台を使って商売をしていいことにした。
父親は毎日、難民キャンプの近所でフールの屋台を出している。
だが、屋台が重くて遠くまで行けない。
ガスボンベも積んでいるので、かなりの重さがあるうえに、坂が多いのだ。
もっと売れそうなところまで行きたいのだが、
まだ赤字で、ぼくたちの出すサラリーで補てんしているという。
それでも、仕事がないよりずっといい。
多くのお客さんに知ってもらったら、いずれは赤字も解消できるだろうと希望をもっている。
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