聴診器でテロと闘う(32)
難民キャンプ訪問記⑨
新年を迎えた難民キャンプの天気は大雨。
翌日の天気予報は、雪だ。
砂漠の赤土がぬかるんで、歩くに歩けない状態だ。
大雨のなか、アークレイの難民キャンプでフール(ソラマメの煮もの)の屋台を決行することになった。
こんな大雨でだれも外には出て来ないだろうと思っていたら、
来るわ、来るわ、子どもたちがあふれるほど駆けてきた。
子どもは退屈なんだ。
何かおもしろそうなことがあると、雨になんか負けない。
競争のようにしてやってくる。
続いて大人たちも、屋台をなつかしそうにやってくる。
みんなうれしそうだ。
あっという間に、大量に用意した豆が売り切れていく。
それでも、まだまだ子どもたちがやってくる。
違う種類の豆もきれいになくなった。
白血病のローリンは、お父さんを助けて、大騒ぎしている子どもたちを並べ、平等に豆を配っている。
小さな子どもは少し優先したりするのは、ローリンの優しさだ。
病気をして苦労しているから、人にも優しいのだろう。
いかつい顔の父親も、並べ、並べと怒鳴りながら、うれしそうだ。
仕事ややりがい、生きがいがあるということは、どんな状況になっても支えになる。
フールをもらいに来てくれた男性が声をかけてきた。
「1月1日にこんなあたたかなイベントをやってくれてうれしい。
日本人はさすがだ。
こんなに子どもたちが喜んでいるのは久しぶりだ。
おれたちは雨にもISにも負けない。
ハッピー・ニュー・イヤー」
なんだか目頭が熱くなった。
うれしかった。
自分の正月をなしにして、難民キャンプを歩いている。
それでもこんなことを言われるとうれしくなるのだ。
◇
屋台が終わった後、ローリンの父親が一緒に夕飯を食べていけという。
貧乏で生活が苦しいのに、この父親はいつもそうだ。
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