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2016年1月23日 (土)

聴診器でテロと闘う(38)

難民キャンプ訪問記⑭
ダルシャクランの難民キャンプで、年配の男性に話を聞いた。
これまでどんな苦労をしてきたのだうろか。
いかにもクルディッシュ、歴史が刻まれたような風貌である。
男性は言う。
「おれたちはヨーロッパなんか行かない。
ここで生きるしかなんだ。ここの生活は大変だぞ」
以前は国連から砂糖と油と小麦が支給された。
その後、一人3000円近くの補償金が出て、市場で好きなものが買えるようになった。
クーポン券と引き換えに、野菜も買えれば肉も買える。
しかし、クーポンが使える店は値段が倍近く高い。
どこで買ってもいいことにしてくれれば、もっと安く、いろんなものが買えるのに。

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「おれたちは不満だ」と、上層部に行ってくれと、訴えた。
生活の小さな不安も、心に大きくのしかかっているよう。
「シリアにも帰れない。イラクでも大切にされていない。どう生きていったらいいんだ」
最後、男性はぼくにハグし、ほおずりをして、
「おれたちの気持ちを世界に伝えてくれ」と言った。
JIM-NETのスタッフである看護師のリームにも話を聞いた。
シリアのダマスカスから逃げてきたときは、しかたなく仕事をしていた様子だったが、
今はとても明るくなった。
そして、優秀である。
このダラシャクランの難民キャンプでヨーロッパへ行った人はどれくらいいるのか聞いた。
「1800家族のうちの300家族がこの半年ですでに出た。
春になれば、おそらく400家族がヨーロッパを目指すのではないか」と答えが返ってきた。
リーム、君は行かないのか、と聞くと、
「私はここが好きだから行かない。
クルドのために私はここで働く。
シリアに帰れるようになったら、ダマスカスに帰る。
それまでは文句を言わず、ここで自分の看護婦の仕事をしっかりやりなから、
クルドを助けようと思う」
自分の役割を知って、彼女はとても強くなった。

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この時期、火災が多い。
寒いため、テント内で煮炊きのコンロを燃やすためだ。
家事でやけどをした家族の診察をした。
子どもは全身やけどで、手首が拘縮している。
手術をして、可動域を広げてあげなければ、右手としての機能が果たせなくなる。
腹部など機能のないところはあきらめたほうがいいかもしれない。
植皮をするのは難しいかもしれない。
父親は右ひざ関節がやけどのために拘縮。
これも手術が必要だろう。
ドホークに火傷の専門病院がある。
治療費は無料だが、そこに行く交通費がないという。
JIM-NETが交通費を出すことにした。
ほんの少しの応援があると、病気やけがにめげず、前を向くことができる。
ほんの少しなんだ。
ほんの少し愛の手を差し伸べていくことが大事だ。

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難民の支援は、国として受け入れることばかりではない。
難民がその場で生きていけるようにすることも、大切な支援だと思う。
そして、後者の方法を丁寧に行っていくことが日本に求められていることなのではないかと思う。

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