鎌田實の一日一冊(269)
「女性と子どもの貧困~社会から孤立した人たちを追った~」(樋田敦子著、大和書房)
「なぜ普通の主婦がヤミ金にまで手を出してしまうのか
なぜ普通の学生が奨学金を返せず借金地獄に陥るのか
誰でも「転落」する時代」
帯には、センセーショナルな文句が踊る。
離婚、がん、奨学金、介護、失業、DV……些細なことをきっかけに、一気に人生が変わった人たちを丁寧に取材して書いている。
子育てを支援する認定NPO法人カンガルーの会の理事長で小児科医の澤田敬氏に、
虐待について聞いているところがおもしろい。
「赤ちゃん部屋のお化け現象」というのがあるらしい。
母親の解決されていない幼いころの心の「物語写真」が浮かび上がり、
訳が分からなくって腹だたしくなった母親は、赤ちゃんを怒鳴りつけてしまう。
赤ちゃんは母親に巻き込まれて、さらに泣く。
そして、母親はさらに怒鳴りつける。
「物語写真」とは、心のカメラでいろんな場面を撮ったもので、それは記憶となる。
それぞれの人生のなかで、みんなこの「心のカメラ」をもっているのではないか。
おそらく、おなかのなかの胎児のときから、始まっているのかもしれない。
それは、「胎児の世界」を著した恩師三木成夫先生から教わったことだ。
いろんなことを考えさせてくれる力作である。
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