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2016年3月23日 (水)

聴診器でテロと闘う(51)

ISが制圧していたシンジャール山の麓にあるラピアという町からやってきた母親と三人の子の一家。
父親は、心筋梗塞で入院中。
長男は、非ホジキンリンパ腫。
不幸が続いている。
彼らはベドウィン、遊牧の民である。
小枝に土を塗り込んだような簡単な小さな家で、草を求めて転々とする生活をしていた。
父親の体調が思わしくなく、50頭の羊を全部売って、アルビルに出てきた。
しかし、仕事がない。
「昔の生活が懐かしい。お金はなかったが、豊かだった」と母親は言う。
町で生活するのにお金が必要だ。
食費だけで月4000円かかる。
母親がマッシュルーム栽培のパートで得た月2000円だけでは足りない。
羊を売ったお金を少しずつ取り崩し、親戚にも借りているが、親戚も大変だ。
帰りたくても、ISが怖くて帰れない。
遊牧の民の彼らは、シンジャール市の周りに草を食べさせに行っている間に、ISに包囲された。
市の真ん中はペシュメルガがISを追い出したが、周囲にはまだISがおり、ベドウィンの親戚は脱出できない。

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二男の7歳の男の子は、学校でいじめられ、学校に行けなくなった。
「勉強しないとだめだぞ」とぼくが言うと、男の子はにこっと笑った。
「お母さんは一生懸命働いて、君たちを育てている。
お母さんを楽にしてあげなくちゃ。
君が勉強して、お母さんが楽できる人間になれ」
そう言うと、「わかった、明日から学校へ行く」と言う。
夢を聞くと、「医者になること」
「そうか、ぼくは医者なんだ」
聴診器を鞄から取り出して、彼の耳につけた。
そして、ぼくの胸に当て、
「おれの心臓の音が聞こえるだろう。わかるか?」と聞いた。
男の子は「わかる」と言い、トン、トン、トン、トンと口で心臓の音を真似た。
うれしそうだ。
初めて聞く世界なのだと思う。
「しっかり勉強して医師になれ。自分の夢を実現しろ」
すると、3歳の一番下の男の子が「ぼくも医師になる」と言い出した。
「そうか、みんな勉強しなくちゃな」

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ISがまちを占領したためモスル大学に通えなくなったサマワは、スレイマニア大学の医学部で勉強している。
いま最終学年で、医者になる日も近い。
そして、このベドウィンの少年たち。
聴診器でテロと闘う仲間が増えだした。
「聴診器でテロと闘う」という言葉が、イラクで流行りはじめたら面白いな。

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