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2016年3月28日 (月)

聴診器でテロと闘う(54)

ぼくがアルビル市内で健康づくりの講演をしているとき、彼はスタッフとして写真を撮ったりしていた。
目のがんのサブリーンのスライドを映したとき、イブラヒムも写っていたことに気づき、
舞台に上げた。
「私はJIM-NETのスタッフで、バスラの小児病院で院内学級をしているイブラヒムです」
などと、自己紹介してくれればいいと思っていたのだが、
なんとマイクを持ち、自分の妻が白血病で亡くなり、がんと闘おうと決意したことなど、10分間も滔々としゃべった。
みんなイブラヒムの話に泣いている。
会場のみんなの心をつかんだのだ。

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この男はいつも明るい。
パワーがあふれている。
それでいてやさしい。
人間のなかの人間だと思っている。
ぼくが疲れた顔をしていると、「明日がある、明日がある」と日本語で歌い出す。
ぼくの肩も揉み、「お元気ですか」と日本語で言う。
実にやさしい男だ。
だが、彼には別の面もある。
イラクでは宗派が強い世界だが、もう一つ部族という見えない世界がある。
部族で決めたことは守るしきたりがあり、部族がかたまりとなって戦いもしてきた。
ムサビーというイラクで最も大きな部族の、彼はドンなのである。
「大事なことは、戦わないようにすること。
戦いをしていいことはないと思ってきた」とイブラヒムは言う。
小さな部族が宗派争いや過激派に巻き込まれたり、ときには危険な任務を担わされたりする。
イブラヒムの「できるだけ戦わないように話をしてきた」ということは、難しくとても重い。
JIM-NETスタッフが危険な目に遭わずに済んできたのは、こういう目に見えない大きな力のもとに安全が守られているからかもしれない。
この日本人たちを何とか守ってあげなければいけない、と尽力してくれている人たちがいるかもしれないことに感謝したい。

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