鎌田實の一日一冊(277)
「道徳性の起源 ボノボが教えてくれること」(フランス・ドゥ・ヴァール著、紀伊國屋書店)
イラクの難民キャンプで巡回診療して疲れ切っていた。
夜まったく眠れない日が続いた。
そこでこの本を手にとった。
道徳は人間だけで持つものではない。
チンパンジーやボノボに木の実を配り、ハンマーと石臼を置いておく。
すると、ボノボはきちんと自分の順番を待つという。
早く食べたくて、ハンマーの奪い合いのケンカが始まりそうな気配もあるが、順番を待っている。
順番を待つという道徳性を支えているのは、見えないところでの力関係だと著者は言う。
一度闘って、勝ったり負けたりすることで社会生活を営む序列ができるのだという。
経験が一定の秩序をつくる。
もちろん秩序を壊そうとする若いボノボも出てくるので、すべてが想定内とはいかないが、
一つの経験が道徳をつくっていくという。
イスラム過激派組織「IS」を中心にしたイスラム原理主義が世界を震撼させている。
宗教が網羅するところの道徳は適応範囲が限られて、用をなさなくなってしまった。
今まではこの道徳に宗教が一定の働きをしていた。
むしろ最近は、宗教の名のもとに、間違った行動を正当化する道具にしてしまっているように思う。
生き物が根源的にもっている道徳性に焦点をあて、その先へつながるものへと広げていくことが大事なのではないか。
難民キャンプの健康づくり運動では、食事や運動だけでなく、生きがいをもち、困っている人を助けることの大切さをポイントとして入れるようにしている。
人間がもっている道徳性の根源に期待しているからである。
だからこそ、ぼくは聴診器でテロと闘うと言い続けているのである。
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