鎌田實の一日一冊(279)
「闘う力 再発がんに克つ」(なかにし礼著、講談社)
2年半前、食道がんが見つかり、陽子線治療でいったんはがんが消えた。
それが再発した。
今度は、内視鏡手術と抗がん剤治療を計画したが、内視鏡ではとりきれず開胸手術を受けた。
しかし、がんは取りきりなかった。
外科医の直観で、気管支を圧迫している腫瘍部分に接している静脈を切除。
これで、気管支穿破を起こさずに済んだ。
再発がんと闘いながら、同時に「夜の歌」という小説を書き始めた。
書くことによって救われたという。
堀田善衛が好きで、読み直しているという。
ぼくも堀田善衛さんのファンで、愛読していた。
堀田さんは蓼科に山荘があり、夏には毎年うかがった。
書斎に入れてもらい、何を書いているのか話してもらったこともある。
「若き日の詩人たちの肖像」は大好きな作品だ。
前回、なかにし礼さんと対談したときには、カフカの話になった。
カフカの「変身」にでてくる虫。
なかにし礼さんは、自分のがんを「アブラムシ」とたとえていたのが印象的だった。
カミュが好きだという。
神もない、明日もない、希望もないというなかで、何者にもすがることなく、
カミュの「異邦人」のように、不条理のなかを崩れても崩れても生きる意志をもたげていく。
なかにし礼さんは、そこに生きる意味を見出しているように思った。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 鎌田實の一日一冊(442)(2024.11.10)
- 食べて、長生き(2024.10.29)
- 国境を越えて(2024.10.11)
- 命の対談(2024.10.10)
- 鎌田實の一日一冊(441)(2024.10.07)