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2016年4月 4日 (月)

聴診器でテロと闘う(58)

ダラシャクランの難民キャンプを歩いていると、
赤ちゃんを抱いた母親たちがおしゃべりをしていた。
みんないい笑顔だ。
現地スタッフの看護師リームが、妊産婦支援やその後の育児指導などをしている。
この母親たちはみな、厳しい生活に負けていない。
明るくて、美しい。輝いている。
子どもを抱くと、オキシトシンが出て、強くなるのだろう。

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一人の母親がぼくに子どもを抱かせてくれた。
子どもはぼくの腕のなかで、ぐずらず、気持ちよさそうにしていてくれた。
小さな心臓の音が伝わってきた。
困難な生活や病気の子どもたちを見て、つらい気持ちになっていたが、
そんな気持ちが溶けていった。
子どもの力は偉大だ。
難民キャンプで過ごす母親たちも、そんな大切なものを子どもからもらっているのだろう。
「早くシリアが平和になるといいね」というと母親がうなづいた。
「この子、ぼくになついているよ。日本に連れて行って、教育のチャンスを与え、世界を平和にするような男にしたいな」
そう冗談を言うと、母親は冗談で切り返してきた。
「ドクターに任せてもいいよ」
この母親は決して自分の子を手放す気がないことはわかっている。
でも、のどから手がでるほど平和がほしい。
いつか世界を平和にするような人間を待っているのだ。
この子がそんな人間に育ってくれたらいいなと思う。
ほかの母親たちは現実に戻り、
「シリアに戻るより、ヨーロッパへ行きたい」と言う。
シリアが平和になることを、たくさんの人はあきらめはじめているのかと感じた。
残酷な現実である。
2000万人のシリア人がみんなヨーロッパへ脱出したら大変なことが起こる。
やはり、シリアが平和になることが大事なのだ。

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