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2016年5月24日 (火)

地域包括ケアシステムとは何か6

在宅医療を行ううえで大切なのは、どうやって希望を見つけるか。
希望をみつけにくい患者さんへのエンパワーを考えている。
同時に疲れている介護者にも希望がもてるようにしたいと、今までやってきた。
一つの手法として、六車由実さんの『驚きの介護民俗学』(医学書院)という本がおもしろい。
著者は文化人類学者で、デイサービスの責任者。
そこで、文化人類学的な手法で聞き取りをすることで、
みる人とみられる人の関係が縦の関係でなくなり、横の関係になっていく。
               ◇
市内の認知症の人のお宅を訪ねた。
築100年を超えた古い家である。
開かずの戸を開けると急な階段があり、屋根裏の広い空間へと続く。
昔はここで蚕を飼っていたという。
すばらしい家である。
「この家をよく残しましたね」というと、
認知症のおじいちゃんがにこっと笑った。

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それを機に、おばあちゃんがいろんなことを話しはじめた。
認知症のおじいちゃんのお父さんという人は、「とんでもない人」だったという。
たくさんの田畑を持っていたが、全部売り払って中国へ行った。
そして、すべて中国に残して日本に戻ってきた。
そのとき子どもだったおじいちゃんは、それを体験した。
「大変だったろうけれど、めったに体験できない魅力的な人生だったよね」
すると、急に目が輝きだした。
おそらく、村の人たちからずっと、後ろ指をさされてきたのかもしれない。
そういうおもしろい話を聞き出してあげることが、大事なのだと思う。
おじいちゃんの声が、なんだか急にしっかりしだした。
今度は、カラオケをやろうなんて話にもなった。
ぼくがこの家を出るときには、おじいちゃんが歩いて、玄関まで見送りに出てきてくれた。
認知症のおじいちゃんにとっては半分くらいわかって、半分くらいわからないのかもしれないが、
おそらくうれしかったのだろうと思う。
認知症になっても、感情は比較的最後のほうまで残ることが多い。
だからこそ、悲しませてはいけないと思うし、できたら一日一回はうれしい、楽しいという感情を味わってもらいたい。
いや、ときには悲しんでもいいのだと思う。
心がキュンとすることで、感情がいきいきとして、何かを思い出すこともあるはずだ。
在宅医療のなかの文化人類学的なアプローチはちょっと魅力的だなと思った。

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