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2016年6月10日 (金)

地域包括ケアシステムとは何か16

この日の往診は、京都大学医学部5年生が研修に同行した。
在宅医療を見るのは初めてだという。
4年間の基礎実習のあと、1年半は臨床実習をする。
大学がすすめる実習場所から、自分でプログラムをつくるのだが、
彼は、ほぼ関西圏でプログラムをつくり、一つだけ関西圏以外の諏訪中央病院を選んだという。
              ◇
患者さんは、認知症で一人暮らしをしている女性。
デイサービスを週2日利用し、デイサービスのない日は、ヘルパーが1日3回、食事介助のために訪問する。
土日は、息子さんがみている。
平日は息子さんと電話でよく話す。
多いときには1日7回。
電話がかけられるということ自体がすごい。
この日の往診には、息子さんも待機していた。

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よく知っている人だった。
お寿司屋さんのオヤジさんで、何度も助けてもらっている。
ボランティア精神が旺盛で、特養ふれあいの里などでお寿司の会を開くと、
米や魚をもってきて、入所者100人やデイサービス通所者、ボランティア、職員たちも食べられるように大盤振る舞いをしてくれた。
「でも、鎌田先生が施設長をしていた、やすらぎの丘は違っていたな」
何が「違っていた」のかと思ったら、息子さんは寿司屋らしい目のつけどころで話をつづけた。
やすらぎの丘でも、お寿司の会を開いているのだが、
そのときの食材が、ピカピカの新潟の最高の米と、日本中から取り寄せたおいしい魚には目をみはったという。
「とんでもなく上等なマグロもあった」と、当時を思い出し興奮ぎみだ。
「鎌田先生の小学校の同級生が送ってくれたんですよね」と、彼はよく覚えてくれていた。
              ◇
認知症のおばあちゃんと、診察の後、仕事の話になった。
「たくさんキャベツを作っていた」
この集落でつくっている高野豆腐をかついで、「よく山梨まで行商にも行った」。
行商は「よく売れた」という。
昔は一人で行っていたが、高齢になってからは息子さんが車で送り迎えした。
4年前まで続けた。
認知症がわかっても、お客さんの家のことはちゃんと覚えていた。
そんなふうに行商の話をしながら、目を生き生きと輝かせるおばあちゃん。
自分の人生を肯定している。
「大変だったが、畑もおもしろかったし、行商もおもしろかった」
               ◇
地域包括ケアはその人の人生のすべてを包括的にみること。
ここで生きてきてよかったなあと振り返り、いろんな人に感謝しながら、最後まで生き生きと生きていけるように手助けするためにある。
そのために、医師が往診にいき、デイサービスがあり、訪問介護がある。
息子さんはいま、在宅歯科をする歯科医のお手伝いとして、運転手している。
「人に役に立つことをするのは、とてもおもしろい」と、彼は言った。
地域包括ケアは、かかわる人たちが達成感をもてる、みんながおもしろくなるシステムでもあるのだ。

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