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2016年6月 5日 (日)

鎌田實の一日一冊(288)

「呼び覚まされる霊性の震災学」(東北学院大学震災の記録プロジェクト 金菱清編、新曜社)
タクシードライバーが出会った幽霊現象。
たしかにお客さんを乗せて、メーターも倒したのに、後部座席を振り返るとそこに人はいなかった。
幽霊というと「うらめしや」という、この世の恨みをもって出てくるイメージがあるが、
震災の後、報告されている幽霊は違う。
突然、命を絶たれた人の無念の思いを、タクシードライバーたちは受容し、自分のなかに秘めるようにして語らない。
被災地には、多くの慰霊碑が建てられた。
多くは追悼と教訓を記している。
名取市閖上では750人が亡くなった。
行方不明者は40人いる。
その閖上中学の慰霊碑は、死者のことを慈しむような感覚、我が子を抱きしめるような感覚があるという。
遺族は、時々行って死者を抱きしめる。
それはとても大事なことなのだ。

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ぼくたちは緩和ケア病棟で、たくさんの生と死を見てきた。
そこでは4つの痛みをみてきた。
肉体的痛み、精神的痛み、社会的痛み、霊的な痛み。
被災した方たちも、この4つの痛みをもっているのではないか。
霊的な痛みとは、自分の生きている意味や生きがいが失われる、「実存」的な痛みだ。
被災地にはスピリチュアルな痛みがある。
なぜ、我が子ではなく、自分が死ななかったのか、と自分を責める親もいる。
3歳の男の子を亡くしたある母親は、震災から1年後、不思議な体験をした。
子どもを失った親たちとみんなで、子どものことを語り合いながら食事をしてるとき、
息子さんが大好きだった自動車のエンジンが突然かかったという。
だれも触っていないのに。
「きっと息子が、ぼくはここにいるよ、と言っているのではないか」と彼女は語った。
この本を読むと、大切なものを震災で置き忘れ、そして震災に気付かされていることがわかる。
いい本である。

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