鎌田實の一日一冊(289)
「産科が危ない 医療崩壊の現場から」(吉村泰典著、角川書店)
著者は日本産科婦人科学会の前理事長で、慶応大学医学部名誉教授。
実に明快な人である。
慶応大学で生殖医療に取り組み、日本の先頭を走ってきた。
非配偶者間人工授精(AID)は、不妊治療をしているクリニックの一大産業になっている。
少子化対策として、国にお金がたくさんあるなら助成をつけてもいいが、
限られた予算ならば、出産育児一時金などをもっと増額したほうが有効だと考え、
出産育児一時金制度を38万円から42万円に増額した。
そのため、生まれた子どもにしてみれば、自分の父親がわからない。
吉村先生は、精子提供者を秘密にすることが大事だと思ってきたが、
AIDで生まれた子どもが自分の親について悩んだり、親と思っていた人に嘘をつかれていたことに悩んだりしていることを知り、
子どもが希望する場合は、できるだけ経過を説明したほうがいいと、考え方が変わったという。
今は病院も、精子提供者の情報を求められたときにこたえられるよう、きちんと記録を残すべきと考えるようになった。
技術の進歩で顕微鏡受精もできるようになった。
元気がよさそうな精子を顕微鏡下で選んで受精させるという技術である。
しかし、通常の妊娠のように、1億個の精子のなかから卵子に到達することがとても大事だという。
命の尊厳についても考えている。
東日本大震災の後、産科がピンチに陥った。
学会を通して、3つの大きな産科の産科医を長期間サポートしてきた。
対談で、「総合医の研修で、女性の医師が子宮頸がん検診などができるようになれば、産婦人科の負担が少しは減っていくのではないか」と提案すると、
大賛成、そういう新しい時代になってきた、と吉村先生はこたえてくれた。
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