« 2016年6月 | トップページ | 2016年8月 »

2016年7月

2016年7月31日 (日)

鎌田劇場へようこそ!(283)

「とうもろこしの島」
グルジアの映画。
2015年アカデミー賞外国映画賞グルジア代表作品。
大きな川の中州に船で通いながら、トウモロコシをつくる祖父と孫娘。
孫の両親は戦争で亡くなったようだ。
そこに、グルジアと戦って負傷した兵隊が逃げてくる。
軍隊を恐れることなく、傷ついた人間を必死に介抱する。
命を救いながら、戦争には見向きもせず必死に作物をつくる老人と若い娘。
人間てこういうものなのだろうなと思わせてくれる。
しかし、突然、悲劇と絶望が訪れる。
そして、また中州で新しい物語が始まることを暗示して、映画は終わる。
とても静かで美しい映画だ。
アブハジア紛争を通し、人間が繰り返してきた愚行と不条理を、見事に感動的に描いている。
映画ってすごいなと思わせてくれる。

Photo

宮沢賢治のこんな言葉を思い出した。
「どうか憎むことのできない敵を殺さないでいいように、早くこの世界がなりますように。
そのためならばわたくしの体などは何べん引き裂かれてもかまいません」
憎んでもいないのに、ぼくたちは戦争してしまう。
やっかいな生きもの、人間。
それでも、その人間が愛おしい。

|

2016年7月30日 (土)

鎌田劇場へようこそ!(282)

「ストリート・オーケストラ」
まもなくリオ五輪開幕。
そのブラジル・サンパウロ最大のスラム街に、子どもたちによるエリオポリス交響楽団が誕生する。
この実話に、2015年ロカルノ国際映画祭8000人の観客が魅了された。
音楽を通し、貧困と犯罪から子どもたちを守ろうとする「音楽教育プログラム」は、1975年にベネズエラで生まれたエルシステマが有名。
東日本大震災後、このエルシステマの団員と、福島で被災した子どもたちが一緒にピースボートに乗って練習し、
コンサートを開いたことがあった。
その音楽の訴える希望は、とても感動的だった。

Photo

この映画の原題(英語)は、「ザ・ヴァイオリン・ティーチャー」。
挫折した天才バイオリニストが、子どもたちにバイオリンを教えることで、ともに変わっていく。
荒れていた子どもたちは、すばらしい交響楽団をつくるまでに成長。
バイオリニスト自身も精神的に強くなり、コンサートマスターに選ばれる。
教えるということは、教えられること。
支えるということは、支えられること。
なんも感動的な映画だ。

|

2016年7月29日 (金)

鎌田劇場へようこそ!(281)

「太陽のめざめ」
親の愛を知らずに育った少年マロニー。
彼は、非行を繰り返すが、家庭裁判所の判事フローランスらが何度も手を差し伸べる。
そして、少年は立ち直っていく。
愛とは、見捨てないこと。
愛とは、惜しみなく相手に時間を割くこと。

Photo

タイトルの「太陽のめざめ」とは、非行を繰り返す少年がはじめて太陽の存在に気が付くことを示しているようだ。
少年の笑顔が印象的な作品。
あの大女優カトリーヌ・ドヌーブと、少年役の新人ロッド・バラドが美しい。

|

2016年7月28日 (木)

地域包括ケアシステムとは何か40

寝たきりにさせないためには、すぐれた技術が必要だ。
それは、高度医療や救急医療とリハビリがつながっていることが重要だ。
諏訪中央病院の整形外科が地域の「ほろよい勉強会」でこんなデータを発表した。
ある先進国の論文では、「大腿骨頸部骨折」の後、10%の人が1か月以内に、3分の1の人が1年以内に亡くなっている。
半数の人が元の日常生活レベルまて回復できない。
1か月以内に自宅に帰ることができるのは半数程度だ。
大多数の人に合併症が出てしまうのである。
諏訪中央病院で、整形外科での1年間手術例は700数十例。
そのうちの116例は大腿骨頸部骨折だが、そのほとんどが36時間以内に手術している。

160704dsc_0772 地域の人に健康の知識を広めるほろよい勉強会

ほろよい勉強会当日も、96歳の人が大腿骨頸部骨折で入院してきた。
内科と共同で診療にあたり、心臓や肺の機能の問題、栄養状態、認知症のチェックなど、
多岐にわたり内科的なチェックした後、すぐに手術となった。
術後は、内科の管理をするとともに、約50人近くいるリハビリの専門家が早期離床、早期リハビリをして、早期退院に持ち込んた。
高齢者を長期入院させると寝たきりになる確率が高くなる。
実は、国内でこれを達成できている病院は少ない。
その後の転倒リスクや骨密度評価をし、再骨折しないように骨折予防につとめていく。
諏訪中央病院では今年2月から新しい骨密度測定器を購入し、10月から骨粗しょう症外来を開く予定。
東京医科歯科大学の整形外科の大川教授にも来てもらい、骨粗しょう症とロコモティブシンドロームの話もしてもらった。
寝たきりを防ぐためには、医療とリハビリの連携とともに、こうした地域の啓蒙活動も大事である。

|

2016年7月27日 (水)

地域包括ケアシステムとは何か39

脳幹梗塞で閉じ込め症候群となっている男性がいる。
手足は動かない。
彼は、わずかに動く唇や目の動きで、妻に伝えたり、PCのコミュニケーション補助具を使って俳句をつくる。
自由律の俳句なので、ぼくは勝手に「第二の山頭火」と呼んでいる。

Dsc_0762

その彼の介護をしている奥さんが体調崩し、緊急入院することになった。
「山頭火」さんも入院してもらった。
彼は自宅が大好き。
「病院は嫌だったですか」と聞くと、
「やっぱりうちがいい」と言う。
そんな「山頭火」さんの新しい作品。

「ああ飽きた 寝たきりに飽きた どうしよう」

悲しみや切なさがあふれ、どこかユーモアもある句だ。
動くことはできないが、大脳は働いている。
もしかしたら彼は、俳句をつくることが生きがいになっているのかもしれない。

|

2016年7月26日 (火)

地域包括ケアシステムとは何か38

認知症の母親を息子さんが介護する家のカンファランスで、
息子さんは「パラサイトシングルです」と自己紹介した。
50歳前後で独身。
明るくて、やさしい。
玉にきずはお酒が好きなこと。
ぼくの本をたくさん読んでいるという。
介護費用は、いい時代に親がお金を貯めておいてくれたものを充てている。

Dsc_0577

地域包括ケアでは、認知症の母親がいい方向へ進むようにサポートすること。
そして、介護している息子さんの人生もいい方向に進むことも考えたい。
介護は、ご家族の人生に大きく影響することが多い。
仕事を辞めたり、親と同居を始めたり、介護離婚などというものもある。
いずれ彼は一人になる。
彼の介護を評価して自己肯定感を高め、いきいきと生きていけるようにすることが大事だ。
地域包括ケアは、かかわる人たちに生きる元気を与え、生きがいを見つけることも一つの目標だと思っている。

|

2016年7月25日 (月)

地域包括ケアシステムとは何か37

地域包括ケアというネットワークを円滑にするためにはケアカンファランスが必要だ。
独身の息子さんが、認知症の母親を看ている往診先で、ケアカンファランスが行われた。
司会はケアマネジャー。
息子さんを中心に、民間の入浴サービスの担当者、諏訪中央病院の訪問リハのPT、往診医が参加した。
訪問看護師は忙しくて立ち会えなかった。

Dsc_0764

母親の認知症が進行していることが問題となった。
どうやったらもう少し食べさせることができるか、元気になるか、議論した。
態勢を立て直すために、ショートステイを使い、リハビリをしようという提案がなされた。
諏訪中央病院に隣接するやすらぎの丘で、ショートステイの時間をつくろうということになった。
ここには5人のPTとOTがいるので、充実したリハビリができる。
QOLをもういち段階上げようという話になった。
「単なるリハビリより、何のためのリハビリか、考えたほうがいい。
お母さんの楽しみって何なのだろう」
ぼくがそう発言すると、息子さんが「母は、テニスや御詠歌をやっていた」と言う。
御詠歌なら、お寺からボランティアで来てもらえるかもしれない。
テニスというのは難しいかもしれないが、この方が元気なころの人生が垣間見えた。
料理も好きだったということもわかり、やすらぎの丘では、一緒に料理をつくってみようという話になった。
地域包括ケアはネットワークであり、
その主人公である人が生きててよかったと思えるようにサポートすることである。

|

2016年7月24日 (日)

鎌田劇場へようこそ!(280)

「みかんの丘」
エストニアとグルジアの共同作品。
コーカサスにある小さな国が、文化や民族の違いで戦いを繰り広げている。
今もまだ問題は解決していない。
グルジアとアブハジアが闘っている最中、アブハジアに住み着いていたエストニア人は逃げていく。
だが、その激戦地となるアブハジアに、みかんをつくって生きてきた二人の老人は留まった。
家の前で戦闘が起き、傷ついた兵士を看病することになる。
アブハジアを応援するチェチェン人とグルジア人という敵同士の負傷者が、家のなかでいがみ合いながら必死に生きようとする。

Photo

戦争というものがいかに人間の肉体だけでなく、精神や尊厳を傷つけているかがわかる。
エストニアの2人の老人が実に哲学的で、丁寧な生き方が、2人の兵士を変えていく。
ラストは圧巻である。
人間は、憎しみの連鎖を超えることができる、と信じさせてくれる映画だ。
                ◇
9/17~岩波ホールでロードショー。
「とうもろこしの島」も同時公開。
人間の原点を堀り下げる傑作である。

|

2016年7月23日 (土)

鎌田劇場へようこそ!(279)

「ラサへの歩き方 祈りの2400㎞」
中国の映画である。
中国がチベットに対して、こんなにあたたかな映画をつくるなんて、少しうれしくなった。
                      ◇
チベットの小さな村の11人が1年かけ、聖地ラサへ、そしてカイラス山への2400キロを五体投地で旅する。
度肝を抜かれた。
3歩歩くたびに身を投げ出して進む「五体投地」。
自らを投げ出し、他者の幸せを祈る。
巡礼者のなかには、アルコール依存症で家族を苦しめている人もいる。
旅を続けながら、あたたかくやさしくなっていく。

Photo

車との接触事故を起こし、彼らのテントを運ぶ車が大破する。
それでも怒鳴り合わず、握手しながら、それぞれの幸せを祈って別れる。
すごい。
ぼくたちだったら、怒鳴り合ったり、最後は法律で解決したりする。
世界は、寛容さを失って、ちょっとしたことから争う。
戦争で殺し合いもしてしまう
だが、もっと大切な生き方があることを、この映画は終えてくれる。
自我に偏執しないための修行。
テントの中でみんなで話し合いをし、お経を唱和する。
これも、11人の旅の人間関係のストレスを取り除く作用がある。
旅の間に、赤ん坊も生まれる。
巡礼の旅は、生と死、人生そのものだ。
なんとも魅力的な映画である。

|

2016年7月22日 (金)

鎌田劇場へようこそ!(278)

「ジャニス リトル・ガール・ブルー」
永遠のロックの女王ジャニス・ジョプリンのドキュメンタリー映画。
生きざまそのものがロックンロールである。
彼女の「サマー・タイム」を聞いていると、自分の青春がよみがえってくる。
暗くて、暑苦しく、しんどい青春である。
多くのシンガーが「サマー・タイム」を歌い続けてきたが、彼女の「サマー・タイム」は全く違う。
心の奥から絞り出すような声は、人生の悲しみを吠えているようだ。
見事なブルースだ。
一度聴いたら、中毒になる。

Photo

子ども時代も大学時代も、ずっとブスと言われ、幸せな思い出がない。
この映画でも、亡くなる少し前に高校のクラス会に出席するが、保守的な地域の同窓生たちには、常識から飛び出してしまったジャニスを受け入れることはなかった。
ジャニスはいつも傷ついてきた。
傷ついて、傷ついて、傷ついて、あの歌声が生まれたのだ。
ジャニスはずっと愛を探していた。
命がけで愛する人が欲しかったのだろう。
音だけで聞くよりも、この映画をみてもらうのが一番だ。
彼女を超えたロックシンガーをぼくは知らない。
すごい映画だ。

|

2016年7月21日 (木)

永六輔さん、ありがとうございました

7月7日、永六輔さんが亡くなられた。
ご自宅に電話をしたとき、亡くなられた直後だった。
ご家族が「なんでわかったんですか」と驚いた。
虫の知らせだったのかもしれない。
「偶然です。でも、虫の知らせってあるんですね」
うちにいたいという永さんの気持ちを察して、入院していた病院に尋ね、
少しだけだが、家で療養できるようにお手伝いをした。
永さんとのお別れにも行った。
「大切なことをいっぱい教えていただきました。
ありがとうございます。
長い間、ご苦労さまでした」
声をかけさせてもらった。
             ◇
永さんから教わったことはたくさんある。
憲法もその一つだ。
「憲法を守る」といったとき、9条ばかりにスポットが当たるが、
99条もとても大事なのだ。
憲法とは、国家の基礎となる法のことであり、国家が守るべきものである。
そのことを、水野スウさんが「わたしとあなたのけんぽうBOOK」という冊子に、わかりやすくまとめている。
「わたしの12条宣言」という項にこう書かれている。
「国民に保障する自由および権利は、国民の不断の努力によってこれを保持しなければならない。
そもそも憲法は、国という権力を縛るためにつくられたもの。
縛られる側はそれが不自由で窮屈だから、何とかそれを緩めようと絶えずチャンスを探っている。
だからこそ私たちは国がすることをいつだってちゃんと見張っていなければいけない。
国が私たちの権利をないがしろにするとき、おかしなことをしようとしたとき、はっきり声に出して、おかしい、いやですって意思表示しなければいけない。
国と私たちのおしくらまんじゅうが必要なんだ。
こういう努力を休まず続けることで、私たちの自由や権利ははじめてやっと保たれる。
きっとこれが12条の本質なんだ」
             ◇
永六輔さんが亡くな った夏、もう一度、みんなで憲法について考えてみたい。

|

2016年7月20日 (水)

地域包括ケアシステムとは何か36

地域包括ケアには、かかりつけ医やかかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師が必要とされている。
5万7000ある処方薬局の多くが、病院の近くにある「門前薬局」。
一つの病院と連携しているだけのところが多い。
しかし、多くの患者さんは複数の病院にかかっている可能性が高く、それぞれの門前薬局で薬を受け取っている例は少なくない。
2025年までにすべての薬局をかかりつけ薬局にして、服薬情報の一元化を行う。
こうすることで、重複した処方や相互作用を防ぐことができる。
抗がん剤など特殊な薬に対しても、副作用を管理したり、患者さんに指導したりすることができる。
かかりつけ薬局は24時間対応を目標にし、在宅の患者さんにも家に出向いて、服薬管理を積極的にする。
診療報酬では、かかりつけ薬剤師指導料に70点(700円)がついた。
今後は、かかりつけ薬剤師がたくさん必要になってくる。

Dsc_0760

マツタケ採りの名人のお宅に、かかりつけ薬剤師と同行訪問した。
マツモトキヨシに勤務する薬剤師である。
患者さんは、自分で納得しないと薬をのまない人で、種類によっては薬ののみのこしがあった。
全部、本人の名前を打ち込んでもらい、本人の薬であることがわかるようにしてもらった。
それを朝昼晩と飲めば、飲み忘れや飲み間違いが少なくなる。
頓服に関しても、どんなときに飲んだらいいのかもう一度、明確に指導してもらった。
しばらく、服薬がきちんとできているか、訪問して服薬指導していくことになった。
地域包括ケアは、多職種のネットワークである。
諏訪中央病院には薬剤師がたくさんいるので、病院から薬剤師を送り出すこともできるが、
病院のなかだけで完結せず、広く地域のネットワークを結ぶことが大事である。

|

2016年7月19日 (火)

地域包括ケアシステムとは何か35

ある男性の末期がんが、節分のころ、緩和ケア病棟に入院してきた。
ちょうどそのとき、緩和ケア病棟では節分の行事の真っ最中。
「鬼はそと、病気はそと」
病室から出られない人にも楽しんでもらおうと、ぼくと看護師が鬼のかっこをして回診していた。
他所の病院で末期がんと言われ、暗い気持ちで転院してきた男性。
いきなり、豆まきの豆を渡された。
「鬼はそと、病気はそと」
大きな声で豆をまいて、大笑い。
「緊張してこの病院に来たけれど、まさか豆をまくとは思わなかった。
しかも、鎌田先生に豆を投げつけることになるとは。
元気が出てきた。
なんでもありなんだと思えるようになりました」
その後、その男性の病室に行くと、色紙が用意されていた。
何か書いてほしいという。
迷ったが、「生きているってすばらしい」と書いた。
命の期限が迫っている人に、この言葉はどうかな、と思ったが、
それでも、この方に元気を出してもらいたいと思った。

Dsc_0582

2か月ほどして、男性はいい状態になり、自宅に帰ることになった。
奥さんは、そのときのスタッフの言葉がうれしかったという。
「いつでも困ったことがあったら、電話してください。
できるかぎり、すぐに入院できるようにします」
末期がんなので、治療がなくなったら無理やり退院させられるのではないか。
退院したら、その後、病院は冷たく、なかなか再入院させてくれないのではないか。
奥さんはそんなふうに思っていたようだ。
だが、この言葉で安心して在宅療養に移ることができたという。
             ◇
ある日、自宅で、夫がテレビを見ていた。
富士見のスキー場にスズランが咲き誇っているというニュースだった。
「行ってみてえなあ」
奥さんと子どもが協力して、車いすに乗せた。
ゴンドラに特別に止まってもらい、抱きあげて乗せた。
上につくと、再び、折り畳みの車いすに移乗してスズランの花畑へ。
大事な思い出になった。
「先生に、もう一回帰れるなら家に帰りましょう、と言ってもらってよかったです。
いい2か月を過ごすことができました。
本人も私たち家族も大満足です」
地域包括ケアは、死をおそれず、死をきちんと見つめながら、生きるためのお手伝いをするネットワークだ。
その延長線上に、笑顔のあるいい最期がやってくるのである。

|

2016年7月18日 (月)

鎌田劇場へようこそ!(277)

「歌声にのった少年」
実在の歌手ムハンマド・アッサーフの半生を描いている。
70年近く戦争状態が続くパレスチナのガザでいきいきと生きる少年たち。
腎臓病の姉らと抱いていた「スターになって世界を変える」という夢を、少年はずっと心に抱き続けた。
アラブアイドルという中東で評判の歌のコンテストに勝ち抜いていく。
アラブの歌は、早いテンポのシャンソンのような空気があり、サビのところは即興を披露する。
アッサーフは、このサビがすごい。

Photo

ガザという絶望の地で、暗くならず、明るい笑顔で生きていく。
メソメソしていないのがいい。
決め台詞は「夢などむなしいと誰にもいわせるな」
映画の途中に出てくるセリフだが、はじめから終わりまで、人間にとって「夢」がどれほど大事か教えてくれる映画だ。
9/24~ロードショー。

|

2016年7月17日 (日)

鎌田實の一日一冊(295)

「注文の多い料理店」(宮沢賢治著、新潮文庫)
宮沢賢治が生前、出版できたのは『春と修羅』とこの作品と言われている。
35歳で亡くなったあと、スポットライトが当たった。
弟・清六さんが作品を大切に保管し、高村光太郎が世に出した。
清六さんの孫の宮沢和樹さんと話した。
帽子をかぶった有名な賢治の写真は、和樹さんの話によると、ベートーベンのまねをして撮ったものだそう。

Photo_2

宮沢賢治はとてもおちゃめな人だったようだ。
『雨ニモマケズ』は、詩として発表したものではなく、自分自身に言い聞かせるために手帳にメモしたものだという。

Photo_2

宮沢賢治は神秘の啓示をうける人だった。
『銀河鉄道の夜』もそうだ。
『注文の多い料理店』に登場する食べられる側の2人は、卑怯な人として描かれている。
卑怯な人々を許せなかったのだろう。
繰り返し宮沢賢治の作品を読んでいると、新しい発見がある。

|

2016年7月16日 (土)

鎌田劇場へようこそ!(276)

「イングリッド・バーグマン~愛に生きた女優」
オスカーを3度獲得した世界最高の女優ともいわれたイングリッド・バーグマン。
「聖女」といわれたこともあれば、「悪女」といわれたこともある。
ハンフリー・ボガートと共演した「カサブランカ」は特に有名。
ヘミングウェイ原作の「誰が為に鐘は鳴る」では、ゲイリー・クーパーと共演した。
ヒッチコックの名作「汚名」では、ケーリー・グラントと共演した。
たくさんの映画監督に愛された。

Photo_2

プライベートでは4人の子どもをもった。
愛することを恐れなかった。
「私は世界一内気だが、心のなかには獅子がいる」
カメラマンのロバート・キャパとの恋は激しかった。
キャパはイングリッドにこんな言葉を残している。
「仕事ばかりしていると人間らしさを失って、ただの女優になってしまうよ」
イングリッドは、10年ごとに人生を大きく変えた。
スウェーデン、イタリア、フランス、ロンドンと住む場所も付き合う人も変えた。
人生には悩み続け、「自分の求めているものがわからなかった」と言う。
迷いながらも、子どもたちは大事にし続けてきた。
イタリアの社会派映画監督ロッセリーニと不倫し、やがて子どもをもうける。
世界からバッシングされ、特にアメリカでは上映を邪魔する動きがあった。
映画の仕事が少なくなったが、負けなかった。
「成功は不運より危険で、人を堕落させるものだ」と思い続けた。
彼女を輝かせたのは、「自分らしく生きること」。
自由を大事にする人であった。
そして、母性の人だったと思う。

|

2016年7月15日 (金)

鎌田劇場へようこそ!(275)

「神様の思し召し」
エリートの天才外科医とムショ帰りのカリスマ神父の2人。
外科医は、表面的なことしか見えていないが、順風満帆に生きてきた。
一方、見えないものを大切にしようとする神父は、ムショ帰りでもあり、人生に何度も失敗している。
医学部に通う外科医の息子が、キリスト教に目覚め、神父になろうとする。
慌てる父親。
家中が破滅しそうになっていく。
この2人の交流を通して、人生とは、命とは、生きるとは、という根源的な問題を問うていく。

Photo

外科医と神父が丘に立ち、果実がたわわに実る光景を見る。
その果実が落ちるのは、重力ではなく、大いなる力があるからだと神父はいう。
エンディングでは、何らかの力によって果実が落ちるように、「人間は変われる」ことを示し、みる人の心を打つ。
最後は、観客が自分流に解釈できる不思議な終わり方。
素敵な映画だ。

|

2016年7月14日 (木)

活動報告

JCFの理事会総会および会員に向けた報告会で、事業内容と事業費を報告した。
JCFの全事業費は約1億円。
そのうちイラクの難民支援事業に7681万円かかった。
ぼくたちが医薬品の支援をしているイラクの難民キャンプの4つの診療所では、
2015年2~7月、5万4000人の急性患者と、2270人の慢性疾患患者の治療が行われた。
投薬の無駄をなくし、難民の健康を守るために健康手帳を配布。
ヘモグロビンA1cなど糖尿病の検査もできるように、質的アップもはかってきた。
国内での活動も積極的に行ってきた。
福島ではガラスバッチやガイガーカウンターの貸与を行っている。
食品放射能測定は、信州大学の学生や大学院生らを中心に「チームめとべ」を結成し、質の高い測定をしている。
松本では、材料の段階で食品の測定を行っており、約2.3ベクレル/キログラムのサツマイモが見つかった。
基準値よりもはるかに少ないレベルだが、子どもの給食なので、できるだけ注意したいということで、急きょ、徳島のサツマイモに切り替えられた。
福島の子どもたちの健康診断は、信州大学や諏訪中央病院でも行っている。
保養プロジェクトを行ったことも報告された。
南相馬の絆診療所での、健康相談や栄養指導にも支援をしている。
事業規模が大きくなって、このままの状態で運営を続けていくとピンチになるが、
今のところ、専門の会計士から「NPOとしては活発に、たいへんうまく運営されている」と評価された。

160619dsc_0697

160619dsc_0703 世界難民の日に開かれたJIM-NETのイベント

JIM-NETの理事会総会でも、事業報告。
約1億6281万円の収入に対し、551万円支出がオーバーした。
イラクの医薬品、医療機材の支援、感染症対策、病院内のプレイルーム、貧困者への医療費、交通費、生活の支援、さらに難民の健診の実施や母子保健への支援、難民キャンプでの鎌田の健康づくり運動、給水支援、女性や子どもの負傷者への支援、ヨルダンでのリハビリテーションと義肢支援、そして、福島の子どもたちを放射能から守る活動、放射能リテラシー向上のための活動など、活動は多岐にわたり、支援者から積極的な活動が評価された。

160621dsc_0708 南相馬市の放射線量率マップ

今年度は、補助金を含め、収入の確保を積極的に行っていくことが決まった。
チョコ募金以外の方法も展開していこうと検討している。
これからも応援をよろしくお願いいたします。

|

2016年7月13日 (水)

ハーブガーデン祭り

諏訪中央病院のハーブガーデンは、ボランティアによってつくられている。
この日は、ハーブの苗のバザーや、ハーブオイルでハンドマッサージなどが行われた。

160615dsc_0688

160615dsc_0683

160615dsc_0696

160615dsc_0682

緩和ケア病棟では、患者さんや家族でカレーをつくって食べたが、ハーブティーや、食べられる花を添えたハーブサラダも出された。

160704dsc_0770

160704dsc_0768

|

2016年7月12日 (火)

鎌田實の一日一冊(294)

「ガーゴイル 転生する炎の愛」(アンドリュー・デイビッドソン著、徳間書店)
700年という時をかける壮大な愛の物語。
愛は、死のように強く、地獄のように激しい。
700年前から愛し合う二人が出てくる。
その主人公の男が自動車事故で火だるまになり、大やけどを負う。
「私がこのひどく醜い顔と忌まわしい肉体を自分のものとして受け入れたのは、
そのおかけで否応なく自分自身の枠を超えなくてはならなかったからだ。
以前の肉体では自分の枠のなかに隠れることができた」

Photo

ダンテの「地獄編」のように、地獄を乗り越えていく愛の強さが描かれていく。
途中で、作者は狂気にとらわれ別の世界を生きているのではないかと勘ぐりたくなったが、
大陸を超えて広がった物語が見事に一つに集約されていき、すべて作者はコントロールしていたのだということにの気が付いた。
なんと、清少納言も出てきたりするのだ。
「アイシテイル」という日本語も出てくる。
この作者は、5年ほど、日本で英語の教師をしていたのだそう。
はじめは100社以上の出版社に断られたが、デビュー作としては破格の版権料でアメリカの出版社が刊行。
大ベストセラーになった。
「記憶と欲望のはざまの何もないこの空間で長い時を過ごし、このひびわれた文章の帝国をつくり上げた。
いま私はそこに住む」
大やけどを負った男の、献身的に支えてくれた女性への愛の物語でもある。

|

2016年7月11日 (月)

鎌田實の一日一冊(293)

「ピレネーの城」(ヨースタイン・ゴルデル著、NHK出版)

Photo

ゴルデルはベストセラー「ソフィーの世界」の作者。
この作品は、恋愛小説であり、ミステリーであり、哲学書である。
とても切ない。
現実と霊的なもの、宇宙と地球、肉体と魂。
かつて5年間同棲していた二人が、30年ぶりに再会したのを機に、メールをやりとりする。
魂から魂に向けて、文章をつづっていく。
見えないものをどう信用するか、二人の格闘が続く。
グリアム・グリーンの「情事の終わり」では、神の存在を信じるかが語られるが、
この作品は、愛についての小説である。

Photo_2

タイトル「ピレネーの城」は、巨大な岩が浮遊するルネ・マグリットの絵である。
幻想的で、いろんな想像が湧いてくる。
浮遊する岩の上にある城に、どうしたら到達することができるのか。
想像力だけがその方法である。
人間というやっかいな生き物のなかに、どうしたらたどり着くことができるか。
ゴルデル、うまいなと思った。

|

2016年7月10日 (日)

鎌田劇場へようこそ!(274)

「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」
人間というやっかいで不思議な生き物には、常に可能性がある。
学校からも、地域からも、家族からも見放された、学級崩壊した教室に奇跡が起こる。
実話から生まれた物語だという。
勉強嫌いな子がどうしたら勉強が好きになるか。
一人の歴史教師が、生徒たちの好奇心を呼び覚ます。
好奇心は、自分のなかに隠れていた可能性を引き出す。
自分でも気が付かなかった能力や才能が、突然、むくむくと現れてくるのだ。

Photo

陽のあたる教室」(1995年)というのがあった。
教師と生徒がぶつかり合い、新しい元素を生み出す。
教室というのは、そういう奇跡を起こす空間なのだと思う。
しゃれたフランス映画だ。

|

2016年7月 9日 (土)

鎌田劇場へようこそ!(273)

「めぐりあう日」
ウニー・ルコント監督とは6年間ほど前、婦人公論の紙上で往復書簡をしたことがあった。
彼女のデビュー作「冬の小鳥」に合わせてである。
親に捨てられ、孤児院に入った9歳の少女。
大切にしていた小鳥が死に、小鳥を埋葬しながら、生きる決意をしてフランスへと旅立つ。
監督自身の実体験から生まれた作品だ。

Photo

今度の「めぐりあう日」は、フランスを舞台にした、その後の物語といえる。
理学療法士の女性が、自分の出生を知るために、息子を連れて、ある港町にやってくる。
そして、別れた親とめぐりあう日がやってくる。
美しい映像と美しい音楽。
捨てられたり、虐待を受けたりしても、
「あなたが狂おしいほどに愛されたこと」は忘れてはならない。
そんなことを思わせてくれる映画だ。
7/30~岩波ホールで公開。

|

2016年7月 8日 (金)

支援居酒屋「京丹後屋」

新宿歌舞伎町にある「新宿駆け込み餃子」は、刑務所出所者やひきこもりの人などの社会復帰を支援する居酒屋。
その支援活動は認知され、評価されてきた。
「新宿駆け込み餃子」をプロデュースした玄秀盛さんは、一般社団法人再チャレンジ支援機構の理事であり、人生のトラブルを抱えた人たちの相談に応じる公益社団法日本駆け込み寺のリーダーである。
今度は、同じ歌舞伎町に、「酒肴蔵 京丹後屋」をオープンした。
ヤマダ電機を背にして、かつてあったコマ劇場を目指し70メートルほど歌舞伎町に入っていくと、右側のビルの4階にある。

160610dsc_0675 玄秀盛さんと、京丹後屋で

ここでは、舞鶴のおいしい魚や九条ネギを使った料理、京風おでんなどが食べられる。
刺身がおいしい。
豚もおいしかった。
駆け込み餃子の餃子も食べられる。
シェフは、有名ホテルで修行した経験もある料理人で、料理に対してまじめである。
玄さんの活動を知り、働かせてほしいと手紙を書いたスタッフもいる。
人生につまずいても、再チャレンジできる場があれば、もう一度、能力を生かすことができる。
救われる人がいる。
お客さんが増えれば、もっと人を雇える。
再チャレンジができる社会になってほしい、という願いも込めつつ、
おいしいので、ぜひ、多くの人に行ってもらいたいと思う。
酒肴蔵 京丹後屋についてはこちら↓

|

2016年7月 7日 (木)

地域包括ケアシステムとは何か34

地域包括ケアの「刺激薬」として、北海道の十勝の東北部にある本別町に行ってきた。
10年前、健康であたたかな福祉のまちづくりを宣言した本別町。
いまその芽が見事に出はじめている。
高橋町長は、まちづくりに情熱をもっている。
国保の本別町立病院も新築し、機器を高機能化させた。
内科医2人、外科医1人、耳鼻科医1人。
地域包括ケアを充実させていくためには、医師の人材がもう少し必要なのだろうが、
北海道ではなかなか難しいようだ。
そのなかで、よくがんばっていると思う。
全国から招かれるカリスマ保健師・飯山さんもいる。

160627dsc_0749

看護小規模多機能を見せてもらった。
ここに短期入所している女性は「よく看てもらえて、幸せだ」と言う。
ショートステイやデイサービスが利用できる。
おもしろいのは、この隣にふつうの住宅があること。
これがなかなかいい考え方で、ここにいる人たちも訪問介護や訪問看護、デイサービスなどを利用できる。

160627dsc_0746_2

160627dsc_0744

訪問看護ステーションは、地域包括支援センターの2階にあり、第三セクター方式で運営されている。
在宅ケアに熱心な開業医の藤沢先生も訪ねてみたが、訪問診療が必要な人には断ることなく、診ることができているという。
そのほかに、民間の老人保健施設やグループホームがある。

160627dsc_0747

もちろん、保健師たちが保健センターにいて、町民たちの健康管理もよく行ってる。
地域包括ケアは在宅ケアのネットワークが目立つが、
健康づくり運動がきちんと行われているかどうかが大事なところである。
そして、亡くなるときに、選択ができることも大切なポイントだ。
がんの末期でも、自宅がいいとか、看護小規模多機能の隣のアパートに住みながら訪問看護を受けたいとか、
そういう選択ができることが大事である。
本別町では、かなりたくさんのメニューが上手にできあがっている。
さらに血の通ったネットワークに育っていけば、人口8500人の地域としては完成形になるのではないかと思った。
また応援に行くことになるかもしれない。
                ◇
おまけ・・・
十勝名物のトンテキ。
浮舟という人気のお店のニンニクトンテキを食べた。
大きさに驚く。
なんと460グラム。

160627dsc_0741

ここのおかみさんの友人が、諏訪中央病院の緩和ケア病棟に入院していたという。
「とてもよく看てもらった。感謝している」と目を潤ませたおかみさん。
今回のぼくの講演会にも来てくれた。

|

2016年7月 6日 (水)

地域包括ケアシステムとは何か33

日本は災害の多い国。
災害発生直後の救命救急として、DMATが組織され、東日本大震災でも活躍してきた。
その一方で、寝たきりの高齢者や障がい者いわゆる「災害弱者」への対応も重要なことである。
避難所になる体育館のようなところで、トイレの問題ひとつにしても、障がいを持つ人が過ごすのはつらい。
周りの人も、厳しい状況のなかでストレスをためこみやすい。
福祉避難所を設けるのは、とても重要なことだ。

Dsc_0575

4月に最大震度7という大地震が発生し、その後も余震が続いている熊本地震。
「南阿蘇ケアサービス」は、グループホームやサービス付き高齢者住宅の入居者57人が生活。
デイサービス利用者50人、訪問介護サービス利用者40人、職員73人がかかわっていた。
災害が起きたとき、入居者やサービス利用者の安否確認が急がれるが、
ふだんからのネットワークがものをいう。
この「南阿蘇ケアサービス」では、通常の避難所では生活できない障害をもつ高齢者18人を、福祉避難所として引き受けることになった。
ここに、陸前高田の松原園の関係者が3人でチームを組み、応援を出している。
南阿蘇ケアサービスのスタッフも被災しているので、応援が必要なのだ。
陸前高田は、建物の復興はまだだが、いちはやく地域包括ケアシステムづくりに取り組んできた。
たくさんの専門家たちがネットワークを組み、人間と人間の関係の復興を進めている。
医師や看護師、介護士らが、演劇で健康について啓蒙するおもしろい活動もしている。
そんなネットワークがあり、被災経験がある陸前高田だからこそ、自分たちも苦しいが、熊本のピンチに力を貸したのだろう。
地域包括ケアは、災害時のSOSにも強い。

|

2016年7月 5日 (火)

地域包括ケアシステムとは何か32

往診先の患者さんの息子さんの引き合わせで、ある歯科医と出会った。
息子さんは元寿司屋で、いまは在宅歯科診療をしている歯科医の運転のお手伝いをしている。
この歯科医は50件くらいを訪問しているとか。
歯肉から出血が止まらない、血小板の少なくなっている患者さんの相談をすると、
すぐに往診に行ってくれるということになった。
このスピード感が、地域包括ケアには大事だ。
SOSが出たら、すぐに動いて助けようとすることで、信頼感ができていく。

160615dsc_0676

こうした仲間がたくさんできることで、それだけ地域は豊かになっていく。
在宅診療をする歯科医も多くなってきた。
有機的なネットワークが地域のなかに網の目のようにできていくことで、ますます地域で生きやすくなっていく。
地域包括ケアの未来は明るい。

|

2016年7月 4日 (月)

地域包括ケアシステムとは何か31

諏訪中央病院看護専門学校の1年生に授業をした。
この看護専門学校の1期生に、45歳で看護師になることを決めた人がいた。
子どももいて、大変ななかで勉強を続けた。
その看護学生はいま、摂食嚥下障害の専門ナースになった。
ぼくはいま、若い総合医の奥先生に指導を受けたり、
かつて校長時代に教えた看護師に勉強を教えてもらっている。
その話が学生たちに響いたようだ。
一年生のみんなに、「ちょっとだけ人生を変えてみたら」「ちょっとだけがんばってみたら」と話した。
この「ちょっとだけ」がよかったようだ。
一生懸命とか、命がけではなく、「ちょっとだけ」。
ちょっとだけ何か変われば、行動変容は起こりはじめる。

1605302dsc_0633

先任教師から看護の大切な心を教えてほしいといわれ、地域包括ケアシステムの話をした。
地域包括ケアは、厚生労働省がいうところの単なるシステムではなく、
地域包括ケアという新しい哲学をもった、人間復興のケアシステムである。
地域包括ケアを受けることで、患者さんや家族が人間復興していく。
そして、そこにかかわる多種のプロ集団が人間復興していく。
これが、地域包括ケアの哲学だと考えている。

|

2016年7月 3日 (日)

鎌田實の一日一冊(292)

「求愛」(瀬戸内寂聴著、集英社)
超短編のグッとくる作品。
愛や恋を語る寂聴節は、老化を感じさせない。
人間という、秘密を抱えた不思議な生き物について、考えさせてくれる。
寂聴さん、元気だな。

Photo

|

2016年7月 2日 (土)

鎌田實の一日一冊(291)

「ねこのおうち」(柳美里著、河出書房新社)
柳美里さんの2年ぶりの小説。
この作家のすごさがよくわかる作品だ。
著者が生き物が好きなのは、彼女の作品をたくさん読んできて知っている。
世の中猫ブームで、多くの写真集などが出ているが、写真集だけではわからない猫の大変さや愛が、
美しく描かれている。
ちなみにぼくは猫好きではない。
犬好きでもない。

Bk64a

中盤からぐいぐいと引き込まれ、いろいろなことが仕込みまれていることに気付く。
そして、ついついもう一度読みたいという気持ちになる。
簡単に書かれていたことの裏には、人間と人間の関係があり、人間と猫の関係があり、猫と猫の関係がある。
その一つひとつがベールをはぐように見えてくる。
人間という「秘密」をもった生き物が、どれほど猫に支えられているかがみえてくる。
この作家は、被災地の南相馬に移住した。
そこでお会いしたとき、とても生き生きとしていた。
この作品にも、彼女がもつ生き生きとした力があふれ、読む人に元気を与えてくれる。
二度読み終わって、人間ていいなと思った。

|

2016年7月 1日 (金)

地域包括ケアシステムとは何か30

緩和ケア病棟を回診していたとき、摂食・嚥下障害看護認定看護師とばったり出会った。
そのとき、ある患者さんのことに話題が及んだ。
脳幹部梗塞で嚥下障害がある患者さんだ。
                     ◇
往診のとき、患者さんの手の届くところに、推理小説があったのに目が留まった。
テレビはベッドからかなり遠くにある。
テレビよりも、本のほうが好きなのではないか、と思った。
この患者さんは、大脳皮質はやられていないので、集中力さえあれば、本を読める可能性がある。

1606091dsc_0673

本人に、この推理小説を読んでいるのかと聞いてみると、
案の定、本人が読んでいるという。
しめた、と思った。
介護している息子さんに、
「図書館で本を借りてきたあげたら、お父さんはうれしいんじゃないか」
と提案した。
                     ◇
その後、看護師が訪問し、息子さんから様子を聞いた。
「父は何もできない人と思いこんでいたが、鎌田先生に本が読めるかもしれないといわれて、図書館で本を借りてきた」
図書館の本を見せると、「昔、読んだことがある」と言われてしまった。
「でも、父はうれしそうだった」
「もう一回読むよ」と言われた。
介護の日々で、あまりいい会話ができていなかったが、久しぶりに、親子で大人の会話ができるようになったという。
「そういえば、父は本を置いている部屋を2部屋ももっていた。
また本を読みだしてくれ、父のすてきな一面を思い出した」
そう息子さんは語ったという。
この話を聞いて、ぼくはうれしくなった。
今日より明日、成長していくことができるのが、地域包括ケアの願いでもある。

|

« 2016年6月 | トップページ | 2016年8月 »