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2016年8月 7日 (日)

鎌田實の一日一冊(296)・・・下

「新しい人生」(オルハン・パムク著、藤原書店)
主人公は、美しい女子学生ジャーナンに一目惚れした。
その女子学生はこんなことを言う。
愛は、「人間をある目的に向かわせ、生活の中のあれこれから引っ張り出して(中略)
最後には世界の秘密に向かって連れて行くのよ」
主人公は愛について煩悶する。
愛とは何か。
「愛とは身を委ねることである。愛とは愛の理由である。愛とは理解することである。愛とは音楽である。愛と崇高な心と同じものである。愛とは悲しみの詩である。愛とは傷つきやすい魂が鏡を見ることである。愛とは一過性のものである。愛とは決して後悔しないものである。愛とは結晶化することである。愛とはひとつのチューインガムを分け合うことである」
主人公は、一冊の本を読み、人生が変わった。
本や、人との出会い、宗教、思想などによって、人生がある日突然、変わってしまうことがある。
そんな秘密が、一人ひとりの人生には封じ込められている。

Dsc04954 パムクの生まれたイスタンブール。今年1月、イラクの難民支援の帰りに立ち寄った

主人公は、トルコ中を旅しながら、紛争や移民、奇妙な記憶喪失、人混み、恐怖などを体験し、何のせいかわからないが、町があまりにも変わっていることに気が付く。
居場所もわからない。
行先もわからない。
現実と幻想の交錯の中に、若者たちの自分探しが続く。
テントのなかの偽の天使がこんなことを言う。
「いつかあなたがたにも幸運が訪れます。(中略)じれったがらないでください。人生に背を向けないでください。だれのことも嫉妬しないで待つのです。
人生を喜んで生きることを学んだら、幸せになるために、何をしたらいいのかわかるでしょう。
そのとき、あたなが道に迷っても迷わなくても、私が見えるでしょう」
世界中に広がる理解しがたい暴力は、おそらく愛(フロイトのいうエロス)と密接につながっている。
そして、愛はタナトス(死の欲求)とつながっている。
人間のなかにある暴力と愛と死。
とりわけ自分の内なる暴力性を、健康な、人生の困難を乗り越えていける力に変えていくにはどうしたらいいのか。
そんな一冊の本を、人類は探しているのではないか。
どんでもない暴力を世界からなくすような、一冊の本が待たれている。

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