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2016年8月 6日 (土)

鎌田實の一日一冊(296)・・・中

「新しい人生」(オルハン・パムク著、藤原書店)
「ある日、一冊の本を読んで、ぼくの全人生が変わってしまった」
冒頭のこの一行が、ずっとぼくの頭から離れなかった。
主人公の「ぼく」は、工科大学に通う平凡な学生。
古本市で購入した一冊の本に魅了されてしまう。
「ぼくの全存在、ぼくのすべては、いつも以上に椅子や机の前にとどまっているかのようで、本はそのすべての影響力をぼくの精神にだけでなく、
ぼくをぼくという人間にするすべてに対して行使したのだった」
1ページ目でノックアウトされてしまった。
ノーベル文学賞作家の文体は不思議だ。
一つのセンテンスが6、7行も続く長い文章が続くかと思えば、短いセンテンスが畳みかける。

Dsc04949 パムクが生まれたトルコ・イスタンブール。イラクからの帰りに立ち寄った今年1月撮影。この1週間後にテロが発生した

この「本」は、発禁本ではないが、多くの人を惑わすのではないかと回収された。
あるルートを通じて、古本市に流れ、たくさんの人の人生を変えた。
物語の進行とともに、トルコの西洋化に抵抗する秘密組織の存在が明らかになっていく。
西洋と東洋の対立。
アメリカナイズされ、グローバル化されていくなかで、
中東の迷いや逡巡、抵抗が描かれていく。
この「本」とはいったい何なのか。
イスラム原理主義に若者たちを洗脳する本を示しているようには書かれていない。
この本がどんな本であるか、なかなかわからない。
しかし、この本を読んだことで、主人公の旅が始まる。
「ぼくは人生といわれるあの荒波にある時期、意欲的にわが身を投じたものの、求めていたものを見つけられなかった多くの人間のように、自分が読んだもの、互いに比べたいくつかの空想、表現、文章の中に秘密のささやきを発見した」
主人公の青年は、大切なものは何かを発見していく。

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