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2016年8月

2016年8月31日 (水)

動画・スポーツで自立めざす

JIM-NETは、ヨルダンで障害者をサポートする事業を展開している。
戦争で傷ついたシリアの若者が、隣国ヨルダンへ脱出して治療を受け、
話し合いを繰り返しながら自立を目指している。
          *
いよいよリオ・パラリンピックが始まるが、
ここでも生きがいを見つけるために、スポーツをしようということになり、
車いすバスケットや車いす卓球を始めることになった。
障害を負ってからほとんど外出したことがなった人が、スポーツをきっかけに体も心も元気になっていく。

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この動画では、14歳の少年が戦争で傷つき、車いすでの生活となり、
それでも必死に生きようとする姿も見られる。
夢は?
と尋ねるスタッフに、
「ふるさとシリアへ帰ること」
「障がい者があたりまえに暮らせる社会にすること」と答える人たち。
彼らの熱い想いが伝わってくる。
動画をご覧いただき、
ヨルダンでのJIM-NETシリア難民支援事業へ
応援をお願いします。

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2016年8月30日 (火)

もっと強く、幸せになるために

オリンピックは、結局メダルの数なのか。
それではまるで、「人は見かけが大事」というのと同じのような気がする。
見かけも大事だが、見かけより大事なものがある。
メダルも大事だが、メダルよりも大事なものがある。
今回はじめて、難民が特別枠で出場した。
コンゴ出身の柔道のミセンガは、インドの選手と闘った。
左腕の関節技を決められたが、マイッタをせず、我慢し、逃げ切った。
終了間際に背負い投げで有効をとって逆転勝ちした。
「難民だからといって夢をあきらめなくていい。
やりたいことはなんでもできるし、勝つこともできる」
もう一人、コンゴ出身の難民ブカサ選手は一本負けしたが、こう語った。
「多くの人が私の名を呼んでくれて、自分の国にいるようだった。
今日は負けたが、これで終わりではない。
もっと強く幸せになるために練習したい」
この言葉、いいなあ、と思う。
けっしてメダルだけが目標ではない。
強くなるため、幸せになるために練習するのである。
2人の難民の選手を指導しているブラジルのコーチは、
3回戦で負けたミセンガを迎え入れ、
「私には彼の胸にメダルがかかっているように見えた」と語った。
オリンピックはメダルのためだけではない。
限界への挑戦と、競技者たちのすてきな言葉がオリンピックを忘れられないものにしている。

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2016年8月29日 (月)

永六輔さんから教わったこと

永六輔さんのお別れ会が明日8月30日の11時から、青山斎場で開かれる。
ぼくも永さんに感謝のスピーチをする予定である。
永さんからたくさんのことを教えられた。
「日本国憲法99条が大事なんだ」というのもその一つだ。
「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と明記されている。
今では、多くの人がこの大切さについて語っているが、永さんがぼくに教えてくれた10年ほど前は、とても新鮮だった。
永さんは、そういうことに気が付く人だった。
天皇陛下はこうした憲法を守ろうとしているように思えてきた。
かつてアメリカ訪問をしたときの話を聞いた。
天皇陛下をお迎えして、夕食会が用意されたが、天皇陛下側から時間を遅らせてもらえるように要望が出された。
その日は沖縄の慰霊の日。
沖縄戦でたくさんの人が亡くなられた。
天皇陛下は、沖縄の人たちのことを静かに思う時間を持ちたかったのではないか。
永さんから日本の平和を守り続けるように宿題を出されているように思う。
自民党の改憲草案を読むと、
102条第1項に、「すべて国民はこの憲法を尊重しなければならない」と規定している。
政治家がこの憲法を守る義務をもつと言う前に、国民にこの憲法を守らせようとしている。
とても大きな違いなのである。
こういうことを見過ごさないようしないといけないのではないか。
こういうことに気づき、異議を唱え続けられる人間でいたいと思う。

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2016年8月28日 (日)

鎌田劇場へようこそ!(287)

「ビニールの城」
昨年12月に亡くなった蜷川幸雄が演出する予定だった。
新宿梁山泊の金守珍(キムスジン)が引き継いだ。
この「ビニールの城」は、唐十郎の伝説の作品の一つといわれている。
劇団第七病棟に書き下ろし、石橋蓮司、緑魔子らによって初演された。
蜷川さんだったら、どんなふうに演出しただろうか、と考えながらみた。
キャストは蜷川さんが決めた。
主演は、このごろお気に入りだった宮沢りえ。
もう一人の主演は、森田剛(V6)。
宮沢りえがビニ本のヌードモデルを演じている。
ビニールから出られない女性を、若い男が探しまわる。
唐十郎はビニールやブリキ、水たまりが好き。
そこからイマジネーションを広げ、新しい物語を展開していく。
この作品も、水たまりをつかって、この世から離れていく。
その世界をを宮沢りえが存在感たっぷりに演じる。
役者としても一皮むけてきているのではないかと感じさせるほどのっている。
3年前、唐十郎作品の「下谷万年町物語」を蜷川幸雄が演出した。
唐十郎も役者として舞台に立った。
そのときの宮沢りえもすばらしかったが、今回もすばらしい。
唐十郎のわけのわからない長いセリフを、情感たっぷりに演じきった。
宮沢りえが大女優の道を歩きはじめる作品になったと思う。
森田剛が出演しているためか、10代の客も多かった。
若い人には、決してわかりやすいとはいえない唐十郎の世界がどう映るのか。
そのまま受け止めて、自分のなかでふくらませてくれたら、こんなにうれしいことはない。

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2016年8月27日 (土)

カマタの怒り(25)

高速増殖原型炉もんじゅになぜ、これほどお金を投入するのだろう。
世界の原発大国フランスですら、高速増殖炉の実用化に関しては疑問をもっている。
1994年にもんじゅははじめて臨界に達した。
翌年、ナトリウム漏れ事故が起き、次々にルーズな管理が明らかになった。
毎年200億円の維持費をかけているが、まったく動かせる気配はない。
もう22年も動いていないのである。
それに、一兆円を超える国のお金が投入されている。
おかしな話である。
現在、運営している日本原子力研究開発機構が安全に運転する能力があるとは思えない。
これが動いたとしても、結局、使用済み核燃料の問題は解決できない。
もんじゅの計画をやめてしまうと、青森が現在、使用済み核燃料の一時的な保管を断るようなことになりかねない。
そうなるのは困るから、計画を止められないだけなのである。
政治は、現実的な世界で考えるべきである。
このお金を使って、若者の雇用が広がるようにしたほうがいい。
保育所の待機児童の問題や、介護職の給与を改善したり、すべきことはたくさんある。

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2016年8月26日 (金)

カマタの怒り(24)

東芝の子会社であるアメリカのウェスティングハウス・エレクトリックが、
これから65基の原発を受注するといっている。
先進国ではインドに原発を売り込もうと競争しているが、インドに原発をつくった後、核廃棄物のプルトニウムはどう処理するつもりなのだろうか。

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インドはパキスタンとの戦いのなかで、世界の目を盗むようにして核保有国になった。
NPT(核不拡散条約)にも入っていない。
CTBT(包括的核実験禁止条約)にも批准していない。
そんな国に原発を売り込んで、世界のリスクになる結果は考えないのだろうか。
たしかに新興国のなかには、電力が足りず、原発をほしがっている国がある。
だが、核廃棄物の問題が解決されていない以上、お金のために原発を売ることは、
平和を求めている世界が自分の首を絞めることになるのではないか。

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2016年8月25日 (木)

カマタの怒り(23)

アメリカの電力業界大手のエクセロンは、赤字に陥った原発3基を廃炉にすると発表した。
アメリカでは、風力など再生可能エネルギーや安価なシェールガスなどによる発電量が増えたことで、
今後10基の原発の廃炉を決めている。
自由主義経済のなかできちんとした競争が行われた結果の、現実の姿がこれなのである。
日本のように政府の資金が原発産業に流れると、矛盾だらけのいびつな構造になる。
日本で次々と再稼働されるというのはおかしい。
もっと世界の流れをみたほうがいい。
10年前、地球温暖化の対策のために原発もやむなしと考えたアメリカですら、
ここへきて10年前の原発10基建設の構想を見直し、半数がとん挫している。
そういう世界の流れを読み間違えたことが、東芝が苦境に陥ったいくつかの原因の一つだと思う。
アメリカの原発子会社ウェスティングハウス・エレクトリックを買収したが、なかなか利益を生み出すことができない。
2030年までに原発65基の受注をめざすと大見得を切っているが、はたしてできるのだろうか。

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2016年8月24日 (水)

カマタの怒り(22)

とにかく暑い。
この夏、エアコンを効かせて、オリンピックや甲子園のテレビを見ていた家も多いだろう。
だが、猛暑でも、節電要請はない。
再生可能エネルギーが広がりだしていることや、新電力の普及がすすんでいることなどで、
猛暑の暑い時間帯でも、9%近い余力がある。
電力会社は節電どころか、再びオール電化などを言い始め、もっと電気を使ってほしいということまで言いだしている。
でも、そんなのはおかしい。
温暖化対策にしても、むかしのように電気をどんどん使えというのはおかしな話だ。

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2016年8月23日 (火)

イラク避難民への緊急支援を

緊急支援が必要だ。
イラクの大都市モスルを制圧しているISに対し、クルド自治政府軍を中心にしたモスル奪還の軍事作戦がいよいよはじまろうとしている。
それにより、モスルのISの拉致から逃げ出した人たちが急激に増え、
一日1000~2000人が近郊に脱出しているという。
彼らは、4つの地域につくられた難民キャンプに身を寄せている。

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P1310205 設営中のテント(上)と大人数用のテント

ぼくたちJCFやJIM-NETの事務局があるアルビル方面には、
デバガキャンプを中心をして、すでに3万人、これから40万人ちかくの避難民が押し寄せるとみられている。
国連やユニセフも動き出した。
国際NGOにも呼びかけている。
ぼくたちもミーティングに呼ばれ、これから急激に増える避難民に対し、
緊急医療支援の一翼を担うよう期待されている。
JCFやJIM-NETはそれぞれ、医薬品約50万円の支援をしはじているが、
それだけはおさまらない状況である。

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ぜひ、イラク国内避難民の緊急支援を行うJCFやJIM-NETに、
ご支援をお願いいたします。
JCFへのご支援はこちら↓
JM-NETへのご支援はこちら↓

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2016年8月22日 (月)

地域包括ケアシステムとは何か44

リハビリテーションは大事だ。
諏訪中央病院には50人以上のPT、OT、STがいて、整形外科のリハビリテーションや脳外科治療後のリハビリテーションを精力的におこなっている。
回復期リハビリ病棟や、隣接する老人保健施設やすらぎの丘のリハビリテーションなども行い、すべてが在宅を目指して、リハビリテーションを行っている。

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がんの末期で緩和ケア病棟に入院している患者さんは、下腹部の腫瘍のため、
リンパの流れが阻害され、足にむくみがきている。
立ってトイレにいけるが、機械でマッサージをしてリンパの流れをよくしないとならない。
この患者さんは、理学療法士が毎日来てくれるのが楽しみだという。
地域包括ケアは、在宅ケアに向けての流れをつくるために、リハビリを充実している。
OTがかかわり、半身まひがあっても料理ができるようになった人がいる。
STによる嚥下訓練で、食べることを楽しめるようにすることもできる。
どんな人にとっても、昨日より今日よくなっていることは、生きていることの喜びにつながる。
地域包括ケアは、地域とつながり、そして、一人ひとりの喜びを見つけ出すためのシステムである。

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2016年8月21日 (日)

鎌田健康塾(7)

昨日、米麹の甘酒がいいという話をしたが、
日本酒は米と米麹を原料としてつくられているから、アミノ酸やビタミンB群が含まてれいる。
1合くらいまでなら、冷酒でも、常温でも、おかんにしても飲んでもいい。
長野県ではよくそばを食べる。
そばには、ポリフェノールの一種のルチンが含まれている。
タンパク質や亜鉛も多い。
ビタミンB群、カリウムも入っている。
カリウムは、体内のナトリウムと交換されるので、塩分を制限したのと同じ効果があるため、
高血圧の人にはうれしい。
ルチンは、抗酸化力があり、細胞が傷つくのを防いでくれるので、少しだけがんになるのを防いでくれたり、
動脈硬化や脳卒中になるのを防いでくる。

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そばは、米や小麦に比べると、血糖値の急激な上昇が少ない。
ロカボ、軽い炭水化物制限に、そばは最適である。
そばに日本酒、それに高野豆腐の煮物がつけば、立派な健康食。
高野豆腐には、コレステロールや中性脂肪を下げる作用があるレジスタントたんぱくが含まれている。
長野県が、全国でがん死亡率がダントツに少ないのは、こうした昔ながらの食文化を大事にしてきたからでもある。
伝統的な食には、健康にいい知恵がつまっているものが多い。
この時期、麺類を食べるなら、健康のことを考えて、おそばをチョイスしてみてはどうか。

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2016年8月20日 (土)

鎌田健康塾(6)

甘酒は、夏の季語。
米麹を使った甘酒は、砂糖を入れなくても甘みがある。
発酵食品は、腸の機能を高める。
腸には、全体の免疫細胞2兆個の6割が腸にある。
腸に免疫のセンターがあると考えていい。
野菜やきのこ、海藻などの繊維も、発酵食品とともに腸にいい。
繊維の王様といれる寒天は長野県の名産品。
寒暖の差が大きい風土を利用して、江戸時代から自然製法でつくられるようになった。
冷やした寒天で涼をとるのもいいが、夏の甘酒も体にいい。
甘酒には、ビタミンB群やアミノ酸も多く含まれる。
夏の疲れを感じたら、米麹の甘酒を飲んでみるのもいい。

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2016年8月19日 (金)

苦渋の選択

20キロ圏内の小高に帰った双葉食堂。
ラーメンを食べに行った。
小高駅から歩いて2分のところにある床屋さんにも行って、
髪を切ってもらった。

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絆診療所の管理栄養士さんの実家は、長い間、人が住んでいなかったため、
雨漏りで家がいたみ、取り壊すことになった。
いまは、更地になったところを、建設会社に貸している。
新しい家を建てない、という選択をした。
家を建ててしまうと、子どもたちの自由を制約してしまうのではないか、と思ったからだという。
20キロ圏内に帰る人、帰らない人。
どちらが正解ということはない。

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2016年8月18日 (木)

福島20キロ圏内で「育てる」

福島の20キロ圏内のなかで、シイタケ栽培をしている女性を訪ねた。
震災前からシイタケ栽培をしようと設備を整えたが、
投資したものは全部、壊れてしまった。
それでも彼女はあきらめなかった。

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シイタケの菌床や菌そのものは群馬や山形などから手に入れ、
ドームで閉鎖空間をつくり、栽培を始めた。
自主的に定期的に放射線量を測定しているが、ND(測定値限界)と出ている。
彼女の栽培したシイタケは、肉厚でおいしい。
測定したデータをすべて見せていることもあり、購入されている。

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NPOをつくり、オリーブ栽培をしている男性もいる。
耕作放棄地を農地にしようと、オリーブ園をつくった。
たくさんの応援団がいて、会員になるとオリーブが送られてくる。
それは自分で育ててもいいし、いわきのオリーブ園に戻してもらってもいい。
そうやって、オリーブ畑が増えてきた。
オリーブはほとんど放射線の吸収をしないらしい。
測定しているが、いつも心配ないデータが出ているという。

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2016年8月17日 (水)

日本の役割を問い直す

8/13の信濃毎日新聞の「戦争と憲法」という連載に、
「イラク戦争を検証を求めるネットワーク」の呼びかけ人になったその思いが紹介された。
見出しは、「「違憲」のイラク戦争関与 問い直す」「米追従の判断 検証重要」
2003年に起きたイラク戦争は、大量破壊兵器の開発疑惑を理由に米国などがイラクに侵攻。
イギリスも追従し、イラクに派兵した。
当時の小泉首相は、翌日、両国の武力行使を支持する声明を出し、イラクのサマワに自衛隊を送った。
このイラク戦争に、ぼくたちは反対した。
だが、戦争を止めることはできなかった。
戦争を反対した以上、戦争に巻き込まれて苦しんでいる子どもたちを助ける活動を始めた。
イラクの子どもたちの医療支援をはじめて12年になる。

Photo←クリックすると拡大します

この夏、イギリスではイラク戦争の検証報告が出された。
報告書では大量破壊兵器の有無を平和的に調べる方法があったのではないかとし、当時のブレア首相の過ちだったとも断じている。
民主主義にとって、検証することは大事なことである。
信濃毎日のインタビューにこたえ、ぼくはこう述べている。
「人は不安な心理の中で過ちをおかしやすい。だから、安全保障を常に検証することはすごく大切だ」
大陸と半島との間の領有権の問題は、安全保障に密接に関係する。
不安だから、ぼくたちは過度に防衛しようということになりやすい。
もちろん、国家として守ることは守らざるを得ない。
そのことはよくわかる。
国のリーダーはすばやい対応をとらなければならないこともある。
だからこそ、そのときの判断が正しかったか、きちんと検証すべきなのだ。
アメリカでさえ、イラク戦争を検証している。
そして、大量破壊兵器について、CIAの判断ミスが大きかったと断じ、CIAの構造改革を行った。
イギリスの検証は自国のリーダーに対して厳しいが、アメリカの検証は甘い。
日本は甘いどころか、検証そのものが行われていない。
イラク戦争によって「イスラム国」〈IS〉が台頭し、世界に恐怖を植え付けたことを考えれば、
イラク戦争の開戦は正しかったのかどうか、かなり疑わしい。
そして、イラクで15万人が命を奪われ、200万人近くが家やふるさとを追われている。
国家の形が変わりだしている。
もっとほかの方法があったのではないか。
アメリカやイギリスが開戦しようというとき、日本だからこそ、開戦を止める中立的な動きはできなかったのか。
検証のないままでは、日本は自国の役割をどう果たせばいいのかすらわからない。

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2016年8月16日 (火)

戦争の罪

アフガニスタンやイラクに派兵されたアメリカ兵の200万人のうち、50万人がPTSDになっているという。
アルコール依存や薬物依存、うつ病などに陥っている。
毎年、帰還兵の240人が自殺しているデータも、
毎日18人の帰還兵が自殺しているというデータもある。
危険な地域に行った兵士ほど、PTSDになりやすい。
危険な地域に派遣される兵士は、貧困家庭が多く、大学の授業料をかせくためや生活を安定させるため、
志願したりしている。

08img_0566 イラクの難民キャンプで

日本の自衛隊も、サマワに派兵された。
イラクに派兵された自衛隊員のうち10年間に28人が自殺。
1割近くがPTSDやストレス障害をかかえているというデータがある。
戦争をしていいことはない。
戦争を支持しないだけだなく、戦争を回避するように、日本は中立的にはたらくべきである。
暴力に対して、暴力で対抗しても本当の平和はやってこない。
日本の立ち位置を明確にしながら、世界の中で役割を発揮していくことが、
日本が戦争に巻き込まれない、いちばんの方法のように思う。

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2016年8月15日 (月)

イラク戦争の検証をしない国

先月、イラク戦争に関する英国の独立調査委員会が、膨大な報告書を発表した。
ブレア首相(当時)は、米国の「大量破壊兵器がある」とする情報に同調しイラク戦争に参戦したが、結局、大量破壊兵器はみつからなかった。
まず、国連決議がなく武力行使をした点で、国際法違反ではないか、と指摘する。
世界がみとめている武力行使は、自国が侵略されそうなときの自衛権と、安保理の承認による場合の2つだけのはずである。
軍事行動を起こした後、軍事と民政で、イラクを安定化させる作戦をまったくもっていないかった点も挙げている。
イギリスはアフガニスタン戦争にも派兵しており、2つの戦争を遂行するだけの資金や人的資源がなかったと検証している。
イラク参戦に前のめりだったことを、イギリスは自己批判しているのである。

01_ イラクの難民キャンプ

イラク戦争に関して、アメリカでも議会で検証が行われ、CIAの機構改革を行った。
一方、日本はどうか。
イラク戦争が開始された翌日、小泉首相はブッシュ大統領にイラク戦争の支持を伝えた。
そして、イラクのサマワに自衛隊を送り、航空自衛隊も派遣した。
米英に無批判に支持したことに関し、日本も検証すべきなのではないか。
安全保障の問題はナーバスで、一刻も争うこともある。
ときには政権が判断せざるを得ないこともあるだろう。
民主主義にとって安全保障は落とし穴になりやすい。
しかし、だからこそ、戦争をふりかえって検証する必要がある。
結局、イラク戦争を契機に、イラクは治安が悪化し、テロが拡大した。
過激派組織「イスラム国」を生みだしてしまった。

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2016年8月14日 (日)

鎌田實の一日一冊(299)

「梅の切り株」(高橋静恵著、コールサック社)
福島の詩人、高橋静恵の詩集には、とても考えさせられた。
詩「梅の花が咲き」の後半部にはこうある。
「あの日
風景が轟々と得体の知れない怪物のようになり
揺れのおさまった空は薄暗くなり
雪が黒く舞い上がっていきました
ふるさとに
十基もの原子力発電所があったことも知らなくて

私のなかで眠っていたワタシが
なにをしてきたのでしょう
なにをしてこなかったのでしょう
なにができたのでしょう
なにができなかったのでしょう
私を責め続けてくるのです」

Photo

義父から新築祝いにもらった大切な梅の木が放射線を浴び、切ると決断した。
詩「梅の切り株」の後半の一部。
「梅の精がひとり正座している
ごつごつとした幹肌
薄い痛みが張りついたまま
この小さな庭で
わたしたち家族
これから暑い夏を
どうやって癒していくのだろう
切り株にしたのはわたしだ
切り株の影が
わたしの背を抱いている
うつうつ
おろおろ
為すすべもなく
わなわな
れろれろ
闇の中で
溢れる嗚咽がわたしを抱いている」

一本の梅の木を通して、福島で生きる人が心を痛めている。
血の涙を流しているのだ。
怒りや悲しみが伝わってくる。
ぼくたちの社会は、2011年3月11日の震災を何事もなかったように受け入れ、
生き方は何も変わっていない。
何とも不思議な国だ。
時間をかけてもいい。
でも、そろそろはっきりと原発への態度を改めるべきなのではないか。
この詩を読んでそう思った。

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2016年8月13日 (土)

「ほうれんそう」が中国語版に

『ほうれんそうはないています』(鎌田實・文、長谷川義史・絵、ポプラ社)が、
中国語になり台湾、香港もマカオを中心に3月から発売されている。
ほうれん草や牛、ミルク・・・。
つながっている命が放射線により、泣いている姿をえがいた。

Horenso

人間の生き方を変えるべきではないかと思い、出した絵本だ。
いろんな言語に翻訳され、世界に広がってほしいと思う。
             ◇
「八ヶ岳山麓日記」は、アクセス数1100万PVを超えました。
いつもありがとうございます!!

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2016年8月12日 (金)

鎌田實の一日一冊(298)

「記憶の渚にて」(白石一文著、KADOKAWA)
世界的ベストセラー作家が不審死を遂げる。
残された謎だらけのエッセイ。
記憶とは何か、時間とは何か。
世代を超えて、どう受け継がれていくか語られていく。
「時間というのは徹頭徹尾「私」の世界に所属し、「私たち」の世界には存在しない」
「掘り出された記憶は、採掘人の手を離れ、金鉱石同様に資源として集積されてさまざまな形に加工され、世界に流通していく」
記憶というのは、加工されていくということだ。

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「記憶というのは、私の内部に存在するのではなく、私の外部に大きな海のようなものとして広がっているのではないか」
作者は、「記憶の海」というのがあると言う。
その記憶の海には、何世代にもわたっ記憶がためられている。
未来への記憶もためられる。
「時間の迷宮」という小説のなかで、時間と記憶と「私」が語られていく。
自分とは何か、自分が過ごしてきた時間とは何か、
考えるきっかけをくれた小説だ。

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2016年8月11日 (木)

鎌田實の一日一冊(297)

「チャーリーとの旅」(ジョン・スタインベック著、ポプラ社)
「エデンの東」「怒りの葡萄」のノーベル文学賞受賞作家が、
受賞する2年前である1960年、58歳で愛犬と自動車アメリカ一周の旅に出る。
子どものころから旅が好きで、大人になっても、その疼きは消えなかった。
要するに風来坊。
「不治の病だろう」と書く。
「旅そのものが人格や感情を持ち、個性的で独特なものとなる。
旅自体が一個人であり、似たものは二つとない。
旅が人を連れ出すのだ」

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著者はアメリカを旅しながら、各地の地域性と出会う。
キャンピンクカーで4か月、走り抜けた。
スタインベックは、「遊行」していたように思える。
孤独を感じながら、生と死のはざまをみようとしていたのではないか。

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2016年8月10日 (水)

鎌田劇場へようこそ!(286)

「ダンスの時間」
「イエスタデイ」
ハリウッドのような商業的に大きな作品ではなく、手作りの小さな作品をよくみる。
これらの映画も、心をやわらかくしてくれるような作品だ。

「ダンスの時間」は、舞踏家の村田香織さんが主人公。
心とからだがしゃべっているようにダンスをする。
彼女のダンスを通し、水族館で働く若者たちの生活や仕事が変わっていく姿も面白い。
映画の最後に、玉ねぎを掘りながら踊る創作ダンスは圧巻である。

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「イエスタデイ」は、1967年のノルウェイ・オスロが舞台。
ビートルズ旋風が吹き荒れるなか、4人の若者が夢を見ながら、
恋をしたり、勉強したり、ときどき親の目を盗んで悪さをしたり。
まさにレット・イット・ピー、あるがままに生きよう、だ。
美しい青春映画。

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2016年8月 9日 (火)

鎌田劇場へようこそ!(285)

「ソング・オプ・ラホール」
パキスタンの都市ラホールで、衰退した音楽文化を盛り返そうとジャズを始める演奏家たちのドキュメンタリー。
かつてパキスタンには豊かな音楽の文化があったが、1970年代イスラム化によってミュージシャンはカーストの最下層にランクされた。
生活は困窮し、崖っぷちに追いやられたミュージシャンたちが、伝統楽器を使ってジャズを演奏する。
シタールや、打楽器のタブラ、横笛のバーンスリーを使い、「テイク・ファイブ」などを演奏する。
それが、ニューヨークのトランペット奏者マルサリスの目に留まり、
ニューヨークの大きなホールでコンサートをすることになった。

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打楽器奏者と横笛奏者はピカ一。
ソロでも、アメリカの一流ミュージシャンと堂々共演できる。
ぼくは道に迷う名人だ。
迷ったときにはナビなんて役に立たない。
だから面白いのだ。
「スイングしなけりゃ、あとがない」と崖っぷちに立ちながら、好きなことに夢中になっている姿に、大切なものを学んだ。
感動した。

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2016年8月 8日 (月)

五輪という魔物

リオ五輪が始まった。
開会式が行われたにもかかわらず、まだオリンピック反対のデモが行われたりするのを見ると、
なんともわかりにくい国だという感じを受ける。
日本だったら、もうここまで来たのだから、仕方ないかと思って、静かに見守るだろう。
2009年、リオ五輪の招致を決めたとき、ブラジルは経済が急成長し、BRICs(ブリックス)の一角として、
世界経済をけん引していくと考えられていた。
2007年にサッカーW杯を承知し、2016年のリオ五輪の招致も勝ち取った当時のルラ大統領は、
汚職事件に関係し、裁判を受けている。
その後継者のルセフ大統領も国家会計を不正に操作としたとして、大統領職務を停止させられている。
オリンピックは魔物である。
ギリシャもスペインも、オリンピックを華々しく成功させた後、
経済の逆風が吹き、政権が揺らいだ。
特にギリシャは国が崩壊する土俵際まで追い詰められた。
ロンドンも、成功した人たちと仕事のない人たちが極端に別れ、
EUの離脱まで突っ走った。
2020年は東京五輪である。
公明正大に、透明性の高い、お金をかけず、無理な拡張をしないコンパクトなオリンピックのスタートにすべきである。

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2016年8月 7日 (日)

鎌田實の一日一冊(296)・・・下

「新しい人生」(オルハン・パムク著、藤原書店)
主人公は、美しい女子学生ジャーナンに一目惚れした。
その女子学生はこんなことを言う。
愛は、「人間をある目的に向かわせ、生活の中のあれこれから引っ張り出して(中略)
最後には世界の秘密に向かって連れて行くのよ」
主人公は愛について煩悶する。
愛とは何か。
「愛とは身を委ねることである。愛とは愛の理由である。愛とは理解することである。愛とは音楽である。愛と崇高な心と同じものである。愛とは悲しみの詩である。愛とは傷つきやすい魂が鏡を見ることである。愛とは一過性のものである。愛とは決して後悔しないものである。愛とは結晶化することである。愛とはひとつのチューインガムを分け合うことである」
主人公は、一冊の本を読み、人生が変わった。
本や、人との出会い、宗教、思想などによって、人生がある日突然、変わってしまうことがある。
そんな秘密が、一人ひとりの人生には封じ込められている。

Dsc04954 パムクの生まれたイスタンブール。今年1月、イラクの難民支援の帰りに立ち寄った

主人公は、トルコ中を旅しながら、紛争や移民、奇妙な記憶喪失、人混み、恐怖などを体験し、何のせいかわからないが、町があまりにも変わっていることに気が付く。
居場所もわからない。
行先もわからない。
現実と幻想の交錯の中に、若者たちの自分探しが続く。
テントのなかの偽の天使がこんなことを言う。
「いつかあなたがたにも幸運が訪れます。(中略)じれったがらないでください。人生に背を向けないでください。だれのことも嫉妬しないで待つのです。
人生を喜んで生きることを学んだら、幸せになるために、何をしたらいいのかわかるでしょう。
そのとき、あたなが道に迷っても迷わなくても、私が見えるでしょう」
世界中に広がる理解しがたい暴力は、おそらく愛(フロイトのいうエロス)と密接につながっている。
そして、愛はタナトス(死の欲求)とつながっている。
人間のなかにある暴力と愛と死。
とりわけ自分の内なる暴力性を、健康な、人生の困難を乗り越えていける力に変えていくにはどうしたらいいのか。
そんな一冊の本を、人類は探しているのではないか。
どんでもない暴力を世界からなくすような、一冊の本が待たれている。

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2016年8月 6日 (土)

鎌田實の一日一冊(296)・・・中

「新しい人生」(オルハン・パムク著、藤原書店)
「ある日、一冊の本を読んで、ぼくの全人生が変わってしまった」
冒頭のこの一行が、ずっとぼくの頭から離れなかった。
主人公の「ぼく」は、工科大学に通う平凡な学生。
古本市で購入した一冊の本に魅了されてしまう。
「ぼくの全存在、ぼくのすべては、いつも以上に椅子や机の前にとどまっているかのようで、本はそのすべての影響力をぼくの精神にだけでなく、
ぼくをぼくという人間にするすべてに対して行使したのだった」
1ページ目でノックアウトされてしまった。
ノーベル文学賞作家の文体は不思議だ。
一つのセンテンスが6、7行も続く長い文章が続くかと思えば、短いセンテンスが畳みかける。

Dsc04949 パムクが生まれたトルコ・イスタンブール。イラクからの帰りに立ち寄った今年1月撮影。この1週間後にテロが発生した

この「本」は、発禁本ではないが、多くの人を惑わすのではないかと回収された。
あるルートを通じて、古本市に流れ、たくさんの人の人生を変えた。
物語の進行とともに、トルコの西洋化に抵抗する秘密組織の存在が明らかになっていく。
西洋と東洋の対立。
アメリカナイズされ、グローバル化されていくなかで、
中東の迷いや逡巡、抵抗が描かれていく。
この「本」とはいったい何なのか。
イスラム原理主義に若者たちを洗脳する本を示しているようには書かれていない。
この本がどんな本であるか、なかなかわからない。
しかし、この本を読んだことで、主人公の旅が始まる。
「ぼくは人生といわれるあの荒波にある時期、意欲的にわが身を投じたものの、求めていたものを見つけられなかった多くの人間のように、自分が読んだもの、互いに比べたいくつかの空想、表現、文章の中に秘密のささやきを発見した」
主人公の青年は、大切なものは何かを発見していく。

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2016年8月 5日 (金)

鎌田實の一日一冊(296)・・・上

「新しい人生」(オルハン・パムク著、藤原書店)
ノーベル文学賞作家の、1994年に書かれた問題作。
2010年ごろに一度読んだが、小説なのに詩のような不思議な文体に魅了されつつ悩まされ、
あやふやなまま頭の整理をつけなかった。
その本を、読み返してみたのは、世界に暴力があふれている理由を知りたいと思ったからだ。

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なぜ、こんなに暴力があふれているのだろうか。
なぜ、人間はこんなことができるのだろうか。
バグダッドで自爆テロがあり13人が亡くなった。
フロリダで50人が、男の銃乱射で殺害された。
そのほかでも、マレーシアやサウジアラビア、ダマスカス、レバノン、イスタンブール・・・。
世界各地で残忍なテロ事件が起こっている。
7月1日、バングラデシュのダッカでは、レストランの客を襲う人質立てこもり事件があった。
日本人7人が殺害された。
この武装集団のなかには、政府与党の子弟や外国に留学した恵まれた若者たちが交じっていることがわかった。
世界が迷っている。
どうしたらいいのか。
同時にぼくも、どう生きていいのか迷っている。
「本の力」を巡る物語のなかに、ぼくは入っていった。
今度は、ゆっくりと頭のなかを整理しながら、楽しい時間だった。

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2016年8月 4日 (木)

鎌田劇場へようこそ!(284)

「人間の値打ち」
アメリカの小説「ヒューマンキャピタル」(人的資本)をモチーフにしたイタリア映画。
投資会社のグループに、小さな不動産屋を経営する男が入り込もうとする。
上流階級にあこがれ危険な投資に打って出ようとする男、満たされない富豪の妻、愛とは何かわからない若い娘。
クリスマスイブにひき逃げ事件が起こり、だれが車を運転していたかが問題になる。

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サスペンスの形をとりながら、人間の秘密と欲望が描かれていく。
お金やものより大切なものがあることに、気付かせてくれる。

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2016年8月 3日 (水)

地域包括ケアシステムとは何か43

ある男性は、手足に痙縮がある。
リハビリだけでは痙縮がなかなか改善しないため、往診でボトックス注射を受けた。
3か月に1回、20万円以上する注射である。
この男性の場合は、効果があったようで、在宅リハをしているPTも、
「明らかに痙縮がとれ、痛みも少なくなり、長下肢装具をつけて歩けるまでに回復した」という。
本人も「この注射をすすめてもらってよかった」とうれしそうだ。
家のなかも明るくなった。
往診するドクターや理学療法士が諏訪湖マラソンに出るので、車いすで応援に行こうという話になった。
ボトックス注射でこんなに局面が変わることもある。
しかし、治療は高い。
「年金生活だから、ずっとは難しい」と本人も言う。
 

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老後破産に近い状態の人が、全国に200万人以上いるといわれている。
破産はしていないが、年金受給者の4割が155万円以下の低所得といわれている。
地方の農山村や漁村では、おつきあいが残っていて、近所で野菜や魚のおすそわけをしたりする。
持ち家率も高い。
医療や介護が必要になったときは困るが、それまでは何とか生活していくことができる。
しかし、衣食住すべてにお金がかかる大都市での生活は、かなり厳しい。
二次医療圏ごとの健康データをみると、東京都のある地域や大阪府のある地域などはがんの死亡率が高い。
貧困と密接に関係している可能性がある。
医療にはお金がかかる。、
肺がんの治療薬オプジーポは、1年間使用すると3400万円近くかかる。
もちろん、高額療養費制度があり、ある額を超えるとお金は後で償還されるが、医療費を負担できないとなると、そこで命の格差が生じてくる。
ボトックスのような治療は、介護生活の質にもかかわってくる。
お金のあるなしが、命や介護の格差につながるようなことになってはいけない。
資本主義社会だから競争のなかである程度の差が生じるのは仕方ないにしても、命に関係することは例外であったほしい。

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2016年8月 2日 (火)

地域包括ケアシステムとは何か42

老人保健施設は中間施設であるという、地域の中での意識改革が必要だ。
入所するときに、インフォームドコンセントを丁寧に行い、
本人や家族に、「レベルアップを図りたいこと」を書いてもらう。
その希望や思いに沿って、リハビリをする。
50人の施設で、理学療法士や作業療法士というリハビリの専門家が5人いる。
その専門家たちが、リハビリをする過程でも、どのくらい進んでいるかを説明し、説明と納得を得ながら、出口に向けてすすめていく。

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かつてやすらぎの丘は在宅復帰率が10%くらいだったが、現在は70%となった。
家庭で介護し続けることが難しい、ほかに入所できるところがないという現実のなかで、どうしても入所は長期化していた。
その結果、家庭に戻れる状態まで回復しても、家庭での受け入れる状況がないということで、
家族の分断も生んできた。
長期入所して帰ってきたら、お年寄りの部屋が孫の部屋になっていた、などということもある。
老人保健施設は、ついの住処である特養とは違う。
施設には、それぞれ役割がある。
地域では意識改革を進めることと同時に、個人と老健の間ではきちんとインフォームドコンセントを徹底してきた。
老健と特養は、存在理由が違うことを明確にさせて、それぞれうまく機能できるようにすることで、地域包括ケアシステムもうまく機能していく。

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2016年8月 1日 (月)

地域包括ケアシステムとは何か41

月一回の「おらほの勉強会」で、老人保健施設やすらぎの丘の介護支援専門員・吉村君に話をしてもらった。
入所者の在宅復帰率は70%超、ショートステイを入れれば90%を超える。
在宅強化型老健は、在宅復帰率が50%以上、ベッド回転率が10%程度、要介護4と5の利用者の割合が35%以上。
日本に約3000の老健があるが、その1割が在宅強化型になっている。
やすらぎの丘は、そのなかでも群を抜いて在宅復帰率が高い。
2010年には、短期入所者は年間7人ほどだったが、今では約80人。
かつてはほとんどが、諏訪中央病院グループから入所してきていたが、
現在は88%が他事業者からの紹介入所である。
施設に対するイメージも、「いつも満床ですぐに利用できない施設」から、
「在宅生活を支えてくれる施設」へと変わり、評価を得ている。
老健は、徹底したリハビリで元気になって在宅に戻る、という形になりだした。
その人が自立していけるようにする自立支援介護が大事だということである。

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「老人保健施設やすらぎの丘は本来の中間施設としての機能を守りながら、
地域との橋渡し役を担うことで、老健が地域包括ケアシステムの中心として機能できる可能性がある」と発表してくれた。
家庭に事情があり、入所期間が6か月超の人は1、2人いるが、1年以上の人は一人もいない。
いちばん多いのは14日以内の短期入所。
1~3か月未満が106人。
要介護4、5が46%とかなり重症な人を受け入れている。

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