« 2016年8月 | トップページ | 2016年10月 »

2016年9月

2016年9月30日 (金)

地域包括ケアシステムとは何か55

多様なサービスのなかで、当事者や家族が選択できるということが大事だ。
胃瘻を置いている人は、26万人いるといわれている。
40万人という人もいる。
実態はよくわからない。
胃の内側と外側から穴をあけ、外からチューブを入れて栄養を送る治療法だ。
胃瘻にもメリットはある。
たとえば、孫の結婚式に出たいから、その日まで体力をつけたい、とか。
一時的な胃瘻で栄養をしっかりとって体力をつけ、いずれは閉鎖するという場合は、積極的にすすめたいくらいだ。
だが、本人の選択もなく、目標も明確にしないまま、ただ食べられなくなったから胃瘻を置くというのは、残酷な結果につながりすい。
地域包括ケアの現場では、その人の人生観を考えながら、ケアの方法を探ることが大事だ。
ポートをおいて、中心静脈栄養という方法もある。
手の静脈から点滴で栄養を入れる方法もあるが、点滴のあいだは手が固定されるので、
ぼくがされる側だったら、できたらしてもらいたくない。
中心静脈栄養のほうが、まだいい。
でも、これもいやだという人もいるかもしれない。
ぼくは、一時をしのぐための使い方なら、受けてもいいが、そのままずっとというはノーサンキューと言いたい。
鼻から胃に管を入れて高カロリーの流動食を入れる経鼻経管栄養という方法もある。
これも、鼻に当たって痛いので、ぼくが寝たきりになったときにはやってもらいたくない。
このことは、いっしょに往診をしている奥先生や、緩和ケア病棟の片岡先生には伝えている。
大事なことは、本人が選択し、その意思をみんなで尊重するシステムがあること。
そのためにも本人が元気なうちに、食べられなくったときにどうするか、意思を伝えておくことである。

|

2016年9月29日 (木)

地域包括ケアシステムとは何か54

地域包括ケアのなかで大切な戦力は、リハビリテーションの専門スタッフだ。
いま全国では、理学療法士(PT)が約14万人、作業療法士(OT)が約7万人、言語療法や嚥下訓練をする言語聴覚士(ST)が約2万7000人いる。
長野県では、順に、2000人、1200人、290人。
諏訪中央病院では37人、19人、7人が働いている。
大変な大所帯である。
30年前、地域包括ケアをはじめたときから、リハビリがとても大事だと思った。
一人PTを採用したところから、徐々に増やしてきた。
諏訪中央病院に隣接する老人保健施設やすらぎの丘の在宅復帰率が80%と高いのは、PT、OT併せて5人いること。
在宅に帰れるように、徹底して機能回復訓練をしているからなのである。
諏訪中央病院では、年間100を超す大腿骨頸部骨折があるが、早ければ3時間後、遅くても48時間以内に手術し、翌日からリハビリを開始する。
こうすることで、元気で歩いていた人を、自分で歩いて帰すことができるのである。
緩和ケア病棟でも、PTやOTのおかげで患者さんたちに希望がわき、明るい病棟になっている。
訪問リハビリも充実している。
少し前、リハビリの専門スタッフから、諏訪地区の懇話会で話してほしいといわれ、
「命をささえるリハビリテーション」と題して講演した。
リハビリは生きる技術の習得、人生に負けない強い心と、地域のなかで孤立しないでいきていく方法をおしえてくれる、そんな話をした。
地域包括ケアは希望のシステムだ。
それを支えているのは大事なもののひとつが、リハビリである。

|

2016年9月28日 (水)

カマタの怒り(32)

公的年金の運用損が4-6月期、5.2兆円になった。
前の四半期1-3月でも同じように、4兆7990億円の損失をだしている。
マイナスが続いている。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2014年から株式の割合を倍増させたが、
結局、株式運用後の累計で、はじめて1兆962億円の赤字となった。
株価を上げるために、年金の積立金を株につっこんで、大幅な損益をだした。
アベノミクスが成功していないことのあらわれだ。
円高で輸入品物価がさがり、さらにデフレが続いている。
「2%のインフレをおこす」どころではない。
成熟した資本主義では、成長神話は通じない。
経済成長ができればそれにこしたことはないが、できないことを無理してやって、
かえってマイナスになるよりも、成長目標を1%くらいに設定したほうがいい。
そのかわり、本当の意味での成熟社会をめざし、子育てや待機児童の問題、まちづくり、高齢者の問題などを解決するためにお金を使う。
介護や保育の人材の給与を上げても、その分だけ消費がうまれ、お金が回転する。
もちろん、それだけで日本経済を救えるとは思わないが、
マイナスを出すよりは、ゆるやかな成長にとどめて、医療や福祉にお金を投入したほうが、国民はずっと暮らしやすくなるのではないか。

|

2016年9月27日 (火)

カマタの怒り(31)

オリンピックで盛り上がっている間に、伊方原発3号機が再稼働した。
「絶対安全追求は非現実的」という風潮に負けだしている。
3.11直後、安全神話が福島原発事故を生んだと、みんなで反省していたのに、
「絶対安全追求」は非現実的という、うまい言葉をあみだした。
1万7000トンの使用済み核燃料が蓄積されているが、核廃棄物の処理法はいまだに決まっていない。
原子力発電環境整備機構が候補地を探しているが、16年間いまだに見つかっていない。
高濃度廃棄物の処理をどうするか。
原発再稼働の最低条件に、使用済み核燃料の問題解決をする必要があるのではないか。
たれ流しややりっぱなし、大事な問題解決をせず、いままでやってきたからという惰性で動いてしまう。
そろそろそんなやり方を変えるときがきているのではないか。

|

2016年9月26日 (月)

カマタの怒り(30)

アメリカで、無差別殺害行為をしている凶悪犯に対して、殺人ロボットが投入された。
警官5人が射殺された状況をきけば、導入もやむなしとも思える。
しかし、無人殺人ドローンがシリアやイラク、アフガニスタンで、大手を振って使用されている。
導入される理由はわかるが、簡単には納得できない。
本当にこれでいいのだろうか。
人間が人間を殺すのは許されない行為である。
殺すときの痛みを感じるからこそ、もう殺したくない、もうやめようというブレーキが利く。
だが、ロボットやドローンでは、その痛みは感じにくい。
コスタリカは軍隊を廃止した。
丸腰国家になった。
コスタリカに詳しい足立力也さんが、いくつも本を書いている。
そこから読み解けるのは、丸腰国家を守るものは教育とコミュニケーションということだ。
隣の国と戦争をしないために、国のリーダーには外交というコミュニケーション能力が必要になる。
そういうリーダーを選ぶために、小さなときからの教育が大事だという。
子どもに、あなたたちの権利は何ですか、と聞くと、
「愛されること、遊ぶこと」と答える子どもが多いという。
ぼくたちは知恵や技術を、殺人ロボットの精度を上げる方向に使うのではなく、
殺人ロボットや殺人ドローンが不必要な社会をつくる方向に使っていくべきだ。

|

2016年9月25日 (日)

鎌田劇場へようこそ!(294)

「奇蹟がくれた数式」
天才数学者ラマヌジャンの物語。
大学も中退、学位もないというインド出身の男が、イギリスの名門ケンブリッジで数々の公式を発表する。
が、結果は正しくても証明ができない。
数学者ハーディは、その才能の高さを理解し、2人に友情が芽生えていく。

Photo

ラマヌジャンがタクシーに乗ったときの話がおもしろい。
タクシーの「1729」という数字に対して、「それは実に面白い数です」と即座に答えた。
ある数の3乗とある数の3乗の和で、最小だというのだ。
12×12×12=1728
1×1×1=1
2つを足すと、1729
もう一つは
10×10×10=1000
9×9×9=729
2つを足すと、1729
そして1~1728までの数でそのような現象は起こらない。
そんなことが簡単に頭のなかで計算できる。
数学のマジシャン、数学の詩人といっていもいい。
天才は若くして死んでしまったが、ノートには彼が書き残した公式や定理が残されている。
その答えは、微妙にずれるが、わずかな差しかない。
ただ、それを証明することができない。
宇宙のビッグバン、ブラックホールの数式に彼の考え方が使われている。
100年経ってやっと彼の斬新さ、先見性が理解できる時代になったと感じさせる映画。
おもしい。

|

2016年9月24日 (土)

鎌田劇場へようこそ!(293)

「92歳のパリジェンヌ」
92歳で亡くなった母の人生を、娘が「最後の教え」という小説にした。
フランスの元首相の母親の実話である。
92歳の誕生日の2か月後、「私は死にます」と宣言する。
足腰が弱り、車が運転できなくなり、失禁したりすることが多くなった。
彼女は美しいパリジェンヌのまま逝きたいと願う。
が、当然、家族の意見は分かれる。
フランスでは、安楽死は認められてない。
認められているのは、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクなどのいくつかの国。
がんの末期でもなく、難病でもないこの主人公は、安楽死に該当しない。
言葉にするのは難しいが、「自殺」ということになる。
倫理的に許されない。

92

しかし、自由に美しい人生を謳歌したいいという強い思いはよくわかる。
夫がいたが、何人もの人と恋をした。
外国に、助産師としてボランティアにも行った。
亡くなる前、かつて愛した男性のところにも訪ねていく。
自由とは何か。
死ぬ権利とは。
自分で決めていいのか。
自由と美しく死ぬ権利について、いずれ本を書きたいと思っている。

|

2016年9月23日 (金)

カマタの怒り(29)

東京電力福島第一原発事故の、50代男性の元作業員が白血病になり、労災と認定された。
事故後、がんなどで労災が認められたのはこれで2人目となる。
がれき撤去や汚水処理に使う機械の修理を担当していたようだ。
3年9カ月の累積の被ばく線量は54.4ミリシーベルト。
昨年度、1年間で5ミリシーベルト以上被ばくした人は4952人いるという。
放射線はできるだけ、少しでも浴びないがほういい。
もちろん、わずかな放射線に対して不安になりすぎるのも問題であるが、
被ばくしなくていい放射線には、被ばくしないほうがいいということだ。

|

2016年9月22日 (木)

鎌田實の一日一冊(300)

「いのち買うてくれ」(好村兼一著、徳間書店)
著者はも剣道の最高段位の八段。
フランスに在住して47年、師範として剣道を広める優れた剣士である。
と同時に、人気作家としていくつものいい作品を書いている。
徳島県のある藩の武士が、重臣に騙され、犯罪に巻き込まれる。
家族を連れて、江戸へ逃げるも、生活は辛酸をなめる。
生きる方法がなくなり、最後に決断したのは「いのち買うてくれ」。
自らの命を投げ出し、生きる道を探るのだが、そこからとんどもない展開がはじまる。
誇りも家族も大事だが、サムライの魂をどう守るか。
命を捨てたときから、次々に奇跡が起こる。

Photo

今ぼくは「遊行を生きる」という意識が、人生を変えるのではないかと考えている。
学び自分を育てる「学生期」、生活のなかで夢を実現する「家住期」、森に隠遁し人生を考える「林住期」を経た後、最後に「遊行期」というのがあるといわれている。
だが、すべての世代で「遊行」の志をもつと、人生がひらけてくるのではないか。
まさにこの「いのち買うてくれ」は、遊行を生きた男の物語のような気がする。

|

2016年9月21日 (水)

カマタの怒り(28)

国連核軍縮作業部会が、核兵器禁条約の交渉開始を強く促す報告書を出すことに関して、賛成多数で議決した。
核兵器のない世界をめざす取り組みだが、なんと日本はこの投票を棄権をした。
棄権の理由として、「核軍縮は核兵器国と非核兵器国の協力がなければ結果がでない」などとあいまいなことを言っている。
米国の核の傘に入っている以上、核兵器禁止条約に簡単に賛成できないのはわかるが、
唯一の被爆国としての役割はあるはずだ。
日本がCTBTの早期発効などの取り組みを重視しているのはわかるが、意見の分かれているこの問題だからこ、世界を説得し納得させることができるのは日本だと思う。
時間をかけてでも、日本は「核なき世界」に向けてのリーダーシップをとっていってほしい。

|

2016年9月20日 (火)

カマタの怒り(27)

日本の言論NPOとインドネシアの戦略国際問題研究所、インドのオブザーバー研究財団が、3か国の各1000人を対象に民主主義に対する意識を調査した。
インドでは7割超、インドネシアでは6割超の人が将来を楽観している。
にもかかわらず、日本は2割の人にとどまっているという。
自国の民主主義が機能しているかという問いに対して、肯定する回答が日本では46%。
インドネシアでは47%、インドでは65%だった。
機能していないと答えた日本人で多かった理由は、「選挙に勝つことが自己目的となり、政治が課題に真剣に向かい合っていないから」という人が60%を占めた。
一方、「政党に期待を持っている」人は15.5%にとどまる。
政治に対する不信感を抱いており、楽観できないことがはっきりわかる。
政治が、この国をまっとうな方向に導いているとは思えないことが、理由になっていると思う。
日本人はもっと楽観力もったほうがいいのではないか。
厚生労働省の研究班の研究によれば、人生を楽しんでいない男性は1.7~1.9倍、
脳卒中や心筋梗塞など血管がつまる病気になるリスクが高いというデータある。
大事なことは、政党政治に不信感をもっているなら、選挙に行って意思表示をすること。
やるだけのことをやったら、その後は楽観することが大事。
そして政治家も、選挙のためだけに動かず、志を高く持って、この国をどうするか真剣に考えてほしい。
10年後、20年後、若者たちが愛せるような国になれるよう、そういう国づくりを政治家もしなければいけないし、国民も意識改革をしなければいけない。

|

2016年9月19日 (月)

鎌田劇場へようこそ!(292)

「誰のせいでもない」
監督は、「ベルリン天使の詩」のビム・ベンダース。
雪の中で起こった車の事故。
そこから悲劇がはじまる。
車を運転していた一人の男を中心に、3人の女の人生が変わっていく。

Photo

売れなかった作家が、雪の中にいる少年を家までおくっていく。
この事故をきっかけに、作家は恋人と別れ、もう一人の女性と生活を始める。
罪悪感をもちながら、孤独のなかでもがき、そして作家として大成していく。
傷つきながら、お互いを許してく不思議な映画になっている。
映画好き満足させるしかけがいっぱいある映画だ。

|

2016年9月18日 (日)

鎌田劇場へようこそ!(291)

「ある天文学者の恋文」
天文学の大学教授と、教え子の愛の物語である。
彼が講義するはずの教室で、教授の死を知らされた教え子。
しかし、死んだはずの教授からメールや手紙、花束が次々と届く。
そのなぞが徐々に解かれていく。
2人の思い出の地、イタリアとスコットランドの風景がすばらしい。

Photo

教え子を演じるオルガ・キュリレンコは存在感のあるすてきな女優だ。
007シリーズのボンドガールにもなり注目されるが、その前にはチェルノブイリの映画の主人公もしていた。
ふるさとウクライナを大切にする女優でもある。
大学教授は、キュリレンコより31歳年上で、アカデミー賞男優のジェレミー・アイアンズが演じている。
監督は、「鑑定士と顔のない依頼人」のトルナトーレ監督。
今回も、星の命と人の命のはかなさを交錯させながら、展開していく。
ぼくたちの体を構成している細胞の成分は、宇宙のビッグバンで生まれた原子からできている。
体が死んだら、また一つひとつの原子に戻り、再び命のもとになっていく。
この宇宙に生まれた一つの原子は、消えることなくバトンタッチされ、新しい命へとつながっていくのだ。

|

2016年9月17日 (土)

鎌田劇場へようこそ!(290)

「湯をを沸かすほどの熱い愛」
主演は宮沢りえ。
その夫役をオダギリジョーが演じる。
1年前に銭湯をやっている夫が一言も言わずに蒸発する。
妻はがんで余命2カ月。
残された時間を必死に生き、家出した夫を連れ戻し、銭湯を再開させる。
学校でいじめられている気のやさしい娘も自立させたりする。

Photo

宮沢りえの母親役も、杉咲花が演じる娘も、そしてオダギリジョーがつれてきた、伊東蒼が演じる娘もみんな生まれ方がちょっと複雑。
母親の必死に生きる姿を通して、みんなに問題を乗り越える力を気が付かせていく。
母親の愛ある行動で、感動でみちた物語になっていく。
宮沢りえもオダギリジョーもいいが、杉咲花がいい。
どんな事情があったにせよ、みんな愛の海から生まれてきた。
熱い愛の物語だ。

|

2016年9月16日 (金)

地域包括ケアシステムとは何か53

地域包括ケアは、住むことも一体として考えているシステムである。
在宅で生活できない場合、特養や老健、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅、グループホームなどがある。
多くの施設が、収入で費用が変わってくるので一概には言えないが、
やはり特養がいちばん安くて平均月約7万円。
老健では約9万円、有料老人ホームでは、18万円くらいから天井知らずになっていく。
介護認定を受けている人は620万人。
自分のもっているお金や体の状況を考えながら、どこに住まうのかという問題はとても難しい。
地域包括ケアでわからないことがあったら、まず地域包括支援センターに飛び込んで、ケアマネジャーに相談するといい。

|

2016年9月15日 (木)

地域包括ケアシステムとは何か52

東京都町田市で複数の施設を運営している福祉福祉法人が、シングルマザー専用の社員寮をつくった。
形としてはシェアハウス型で、5組の母子が暮らしている。
とてもいい発想だと思う。
シェアハウス型だったら、夜勤でも協力し合うことができる。
シングルマザーは仕事を続けることが大変。
一部の企業には、サポートがしっかりしているところがあるが、そうでないところが多い。
諏訪中央病院も、30年ほど前に院内に託児所をつくった。
これが看護師や女医たちに好評で、いい人材が集まるきっかけになった。
母子が住むシェアハウスというのはいいヒントだ。
地域包括ケアシステムは、高齢者だけだなく、働く世代にもやさしいものでなければ、いいシステムにはならないと思う。
地域で介護教室を開くというのも、地域の介護についての理解を広げるきっかけになるが、
さらに、小学生を対象にした介護教室や子どもと介護を受ける人の接点を多く設けることで、もっと魅力的な地域になっていくと思う。

|

2016年9月14日 (水)

地域包括ケアシステムとは何か51

若い医師たちに地域包括ケアの魅力を伝えることも、大事な仕事。
信州大学や京都大学の医学生5人が、ぼくの緩和ケア病棟の回診についてきた。
50代のバイク乗りの男性が、この日、息を引き取った。
彼は車が好きで、病院の玄関に座って、車を見ていることが多かった。
お母さんを残していくことを気にかけていた。
亡くなったあと、お母さんとお会いした。
息子のためにスーツを新調したが、本人はあの世へはバイクに乗るときに着ていた革ジャンを着せてくれ、と言ったそうだ。
ジーンズに革ジャン姿はとてもかっこよかった。
体力がなくなり、500㏄のバイクに乗れなくなったことを悔しがっていた。
きっと、彼はバイクに乗ってあの世へ行ったに違いない。
お母さんが泣きながら、「この病院があってよかった、この病院があったから私も息子もつぶれないですんだ」と言った。
その人らしい生と死を見ること、それも地域包括ケアの仕事のひとつだ。
2025年、団塊の世代が後期高齢者になり、多死時代がやってくる。

|

2016年9月13日 (火)

地域包括ケアシステムとは何か50

介護うつを防ぐには、しっかりと睡眠をとることも大事だ。
と同時に、もう一つ大事なのが運動である。
運動はストレスの解消になる。
運動じたいが、自分の時間をつくることにもなる。
もちろん、都市型のうつを治すには、運動が大事だと井原医師は言っていた。
朝、外で太陽に当たりながらラジオ体操をしたり、15分でも散歩で季節のうつろいを感じたりする。
ストレスを抱えやすい介護者こそ、そんな時間が大事なのだ。
ストレスの解消には、コーピングという技術が有効とされている。
その人にあった心のリフレッシュの方法をもち、疲れたらその方法で自分をリフレッシュさせるのである。
音楽を聴く、小説を読む、おいしいものを食べる、日帰り温泉に行くなど、なんでもいい。
これをすれば気持ちが晴れるというものをつくっておくといい。
これは、介護している家族だけでなく、プロにとっても大事な技術だと思う。

|

2016年9月12日 (月)

パラリンピックと寛容

パラリンピックを楽しんでいる。
ドーピング問題でロシアを出場停止にしたことは、パラリンピックにはいい判断だったと思う。
                     *
車いすバスケットに注目していたが、僅差でトルコに負けた。
残念だったが、鳥海選手を見ているとうれしくなる。
こんなにも速く車いすを動かし、向きをかえ、ボールを奪うことができるのかと、ただただ驚かされる。
一種の芸術だ。
車いすテニスは、国枝選手が二回戦を突破した。
3連覇なるかどうか。
フランスの強豪ステファン・ウデ選手の車いすは1500万円かけた特注だという。
パラリンピックは、選手だけでなく、車いすや義足などの技術者にとっても腕を試される祭典である。
柔道は、迫力がある。
オリンピックでは、勝つために組んだまま時間切れを待つ闘い方を見させられたが、パラリンピックではしっかりと組んだ後、技の掛け合いをする。
本来の柔道に近いような気がする。
目の不自由な人の自転車競技にも注目している。
                     *
パラリンピックをみていると、「寛容」というキーワードを連想する。
世界は、宗教や民族、国家、価値観の違いなどで、分断してきた。
分断のなかで暴力も生まれた。
その分断を解決するキーワードが「寛容」である。
それぞれの違いや多様性を認め合うこと。
あと少しだけ寛容であることが、世界を平和にし、だれにも住みよい社会をつくっていくために、いま問われているのだと思う。

|

2016年9月11日 (日)

鎌田劇場へようこそ!(289)

「弁護人」
韓国映画。
韓国で1100万人の観客動員したという。
ノ・ムヒョン大統領の若いときの、反権力の物語。
貧乏で大学に行けず、独学で勉強して司法試験に受かる。
貧乏だったときにごはんを食べさせてれた食堂のおばさんの息子が、突然、国家反逆罪で逮捕される。
軍事クーデターで大統領になったチョン・ドファン大統領が、民主化運動をする学生たちをつかまえ、単なる読書会をしていた若者に対しても、拷問し、反国家罪をでっちあげる事件が起こった。

Photo

こうした権力の暴走に対して、一人の弁護士が立ち上がるという熱い物語だ。
韓国の映画熱は高い。
もともと熱いが、こういう映画が1100万人以上の観客動員をするというのは、日本では考えにくい。
いずれ韓国は、日本と手を携えられる国になってくれたらいいなと思う。
しばらくは映画や音楽などおたがいの文化を交流し、共感をもつことが大事だと思う。

|

2016年9月10日 (土)

ルーシーも木から落ちる?

エチオピアのアワッシュ川の下流で、アウストラロピテクスの骨がみつかった。
300万年前のアファール猿人の女性の化石で、ビートルズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」にちなんでルーシーと名付けられた。
ぼくは数年前、そのルーシーに会いに行ったことがある。
そのルーシーの死因についての新説がつい最近、発表された。
ルーシーは木から落ち、骨折が原因で死亡したのではないか、というのだ。

Dsc02828

Dsc02837 300万年前のルーシーの骨

アウストラロピテクスは猿人のなかま。
サルとヒトの間で、直立二足歩行はしているが、木にも上っていた。
おそらく直立二足歩行する時間のほうが長くなり、木から木へと跳び歩くことが少なくなり、たまに木に上って落ちたのではないかと推測される。
ヒトは直立二足歩行によって、脳が大きくなった。
脳が大きくなったことで好奇心が生まれた。
二足歩行することで疲れずに遠くまで歩くことができ、やがて出アフリカに成功した。
木の上から地上に下りたぼくたちの祖先の象徴が、ルーシーだったのだと思う。

|

2016年9月 9日 (金)

地域包括ケアシステムとは何か49

在宅医療を支えていくとき大切なのは、介護している家族をどう支えていくかが大きな課題の一つになる。
家族には、隠れた介護うつが多い。
介護うつの疑いがあれば、できるだけ早く手をうつことが大切だ。
独協医大のこころの診療科教授の井原裕さんと対談した。
「日本一、薬を出さない精神科医」ともいわれている。
井原先生は都市型うつが多くなっているが、その都市型うつには薬がいらないことが多いのだという。
過酷な業務で睡眠不足になり、心身が疲弊し、ストレス対応力が低下してしまっている、これが都市型うつの一つのバターンだという。
過酷な介護でも同じことが起こる。

1606101fullsizerender

井原先生は、睡眠不足を解消するだけでも、都市型うつや介護うつにさせないですむという。
基本的には6時間以上の睡眠時間をとってほしい。
とれなければ昼寝の時間もいれて、合計で7時間。
夜中にトイレの介助で起きなければならない場合は、24時間対応の訪問介護で、カギを渡しておいて、トイレ介助をしてもらうとか、
夜間だけ、おむつをする。
今のおむつは吸収力がよい。
2回排尿しても、しっかり吸収する。
しかも、はやく吸収するので、不快感は少ない。
ぼくも実験してみたが、吸収力がはやいというのは大事だ。
気持ちが悪いと、認知症の人などはおむつを外してしまう人がいる。
おむつをうまく使えば、介護者が朝まで熟睡できる。
介護者の心の健康管理のために、ショートステイを利用するのもいい。

|

2016年9月 8日 (木)

地域包括ケアシステムとは何か48

介護保険にかかる費用は3兆円ではじまったが、いま10兆円を突破した。
そのため国は財政制度等審議会を動かして、要介護1、2の生活援助部分や福祉用具貸与を原則自己負担にするなどと言い出させている。
あるいは自己負担2割の人の対象を拡大しようとしている。
自己負担が高額になった場合に一部が償還される高額介護サービス費制度の上限額を引き上げようとする案なども出ている。
高福祉に抵抗する方向性が示されているのは、とんでもないことである。
そのための消費税値上げだったはずたが、2回も延期された。
介護は、地方経済の切り札になる。
製造業が円高に合わせて、働く場を海外に移している以上、期待できない。
介護は地方での雇用を拡大し、その人たちが地方経済を活性化させる消費者になる。
お金の回転がはじまる。
地域包括ケアシステムは、地方経済の支えになるはずだ。

|

2016年9月 7日 (水)

地域包括ケアシステムとは何か47

在宅療養支援診療所が、全国の自治体のうち約3割にあたる552市町村で設置されていない(2015年3月現在)。
北海道、東北などでは、市でも在宅療養支援診療所がないところがある。
できるだけ早く、在宅療養支援診療所をそろえたほうがいいと思うが、
そんなに硬く考える必要もない。
在宅療養支援診療所は件数にすると、1万300か所。
ちなみに、一般診療所は10万か所ある。
地域によってはネットワークで、解決できる。
在宅支援診療所の特徴の一つは、24時間往診できることだ。
高齢や多忙などの理由で24時間対応できない場合、ネットワークで対応する。
看取りも大切な役割だが、4割近くが、年間に一度も看取りをしていない実態もある。
在宅の看取りを広めるため、厚労省は2017年度中に、医師がすぐに駆け付けられない場合などは、医師と看護師の十分な連携があり、患者、家族の同意がある場合は、看護師にも死亡確認ができるようにする。
法医学的な研修会をうけた看護師が、ICTや携帯電話、スカイプなどで医師と交信しながら、医師の確認と指導のもと、
死亡診断書が書けるようにするというものだ。
一刻もはやく、実現すべきだと思う。

|

2016年9月 6日 (火)

いよいよモスル奪還か

8月中旬にモスル西側の村が奪還された。
いよいよモスル奪還作戦が始まるかもしれない。
UNHCRなどでは、大量の避難民に対応できるように、キャンプづくりや診療体制を準備し始めている。
イラクには330万人の国内避難民がおり、さらに150万人の避難民が発生するおそれがあるのだ。
JIM-NETも、ミーティングに加わり、国内避難民への対応に動き出した。

P1310207

クルド人部隊がISからシリア北部のマンビジュを奪還、戦いは激しさを増している。
そんななか、シリアではシリア政府軍とロシア軍が病院を空爆。
イエメンでも、病院が空爆された。
戦争は許すことができないが、それでも、病院は襲撃しないというの暗黙のルールがあったはず。
病院を狙い撃ちしているとすれば、汚い戦争が非道な戦争になっている。
一刻も早く、戦争をとめるべきである。

|

2016年9月 5日 (月)

カマタの怒り(26)

9/7から開幕するリオ・バラリンピックのチケットが12%しか売れていないという。
ブラジルの財政はかなり厳しい。
参加国の渡航費など、拠出できない可能性がある。
大国は自力で選手団を送り出すことはできるが、
小さな国の組織が弱いところでは、それが難しい。
オリンピックの目的は、「人間の鍛えた肉体と友情と連帯」だとオリンピック憲章に書かれている。
ハンデを乗り越えて、スポーツマンシップに則り、スポーツの祭典に参加しようという選手と、それを応援しようという人たちがいる。
オリンピックは成功しても、パラリンピックがうまくいかないのであれば、それは恥ずかしいことだと思う。

|

2016年9月 4日 (日)

鎌田劇場へようこそ!(288)

「PK」
インドの映画の大ヒット作「きっと、うまくいく」(2009年)のラージクマール・ヒラニ監督と主演のアーミル・カーンが再びタッグを組んだ作品。
主人公PKは宇宙からやってくる。
帰るために宇宙船を呼び出すための通信機を奪われてしまう。
必死に探す間、友情や愛が芽生えていく。
インドの複雑な宗教状況を笑い飛ばしている。
ヒンドゥ教徒がいちばん多いが、イスラム教徒やキリスト教徒もいて、
さらにジャイナ教、シク教、仏教など多様な宗教が入り乱れている。

Photo

踊りがあって、歌があって、相変わらずのインド映画である。
途中、軽すぎるかなと飽きかかったところから、えらく面白くなり、
最後は上質のラブコメディになった。
宇宙人からみた地球の人類のわかりにくさを、うまく笑い飛ばしている。
世界の興業収入は100億円を突破したという大ヒット映画だ。

|

2016年9月 3日 (土)

音楽という空気

セイジオザワ松本フェスティバルがあった。
アルチュール・オネゲルの交響曲がすばらしかった。
指揮者はファビオ・ルイージ。
怒りから闘い、そして、平和。
アレグロ、アダージョ、アンダンテとオーケストラを指揮し、ずらしい演奏だった。
ベートーヴェン交響曲第7番イ長調は小澤征爾が指揮をした。
空気をいっぺんに変えた。
第一楽章が終わり、小澤征爾は休憩を入れた。
いすにもたれかかり、手をぶらぶらしている。
肩で息をしているようだ。
コンサートホール中が、心配そうに見つめる。
小澤征爾という類まれな指揮者が、これからもたくさんの感動をつくりだしていくためには、
栄養などの管理が必要だと感じた。
少し体重が足りない。
食道がんの手術をした人は、必要なカロリーを満たしていない人が多い。
もう少し、筋肉もつけないといけないかもしれない。
指揮者は感性豊かなアスリートだ。
しかし、前かがみの指揮から徐々に背骨が伸び、見事に絶頂に上りつめていく。
まるで、指揮者自身の人生の音をつくっているようだ。

|

2016年9月 2日 (金)

地域包括ケアシステムとは何か46

介護保険の第二号被保険者(40~64歳)の保険料は、介護保険がスタートした2000年は、全国平均で月額2075円だったが、2015年度には5514円になった。
このまま推移すると、2025年には8100円にまで上昇すると推計されている。
2025年は、団塊の世代が75歳以上になり、要介護者が今より150万人多い600万人になる。
                   *
月額保険料が8000円を超えるような状況になったとき、低所得者の負担を軽くする必要が出てくる。
そのために消費税を上げなければならなかったはずである。
安倍政権は2度、消費税を上げるとかっこよく言い切ったが、選挙の前に勝つために延期を宣言している。
アベノミクスが成功していたと安倍さんは参院選で言い続けていたが、
成功しているなら、消費税は予定通り10%に引き上げるべきだった。
そうすれば、子育てや介護の問題に見通しが立ったはずである。
                   *
第二号被保険者の介護保険料は、労使折半となる。
保険料負担は頭割りになっているが、年収によって段階的に増額しないと
収入が比較的低い労働者の負担が大きくなる。
そこで、政府は、高収入の人には保険料を多く負担してもらう総報酬制を考えているようだ。
                   *
介護を措置制度から保険にしたのは、正しかったと思う。
今も措置でやってたら、介護サービスが飛躍的に増えることはなかった。
民間が主役に躍り出ることもなかった。
介護保険制度を持続していくにはどうしたらいいか。
社会保障制度を続けていくには、税負担の公平性を考えたうえで再考しなければ、
高齢社会を支える地域包括ケアシステムなどは、絵に描いた餅になってしまう。

|

2016年9月 1日 (木)

地域包括ケアシステムとは何か45

緩和ケア病棟を回診した。
49歳の膀胱結腸がんで肝臓転移がある男性は、奥さんと子どものことをしきりに心配していた。
奥さんがぼくの本を読んでいるそうで、ぼくに色紙を頼まれたことがある。
この3週間ほど、家族ためにいい思い出をつくりたいと希望を語っていた。
池の平ホテルに泊まって遊園地に行く計画を、自分で立てていた。
お盆の時期なので、人気ホテルの予約がとれないときは、ぼくもホテルにお願いしようと思っていたが、
その心配はなかった。
彼は、自分のことは自分でする、自由な人だ。
いつも点滴を抱えて、外来の長椅子の気に入ったところに座ったり、ときにはそこで寝込んしまう。
自由気ままに病院の中を動き回り、自分らしくいることにこだわっている。
              *
40歳の肝がんで、肝硬変を伴い、多発性骨転移のある患者さんは、肝性脳症になって、ゆっくりとした会話しかできない。
野菜の名前もなかなか思いだせない。
ぼくが回診に行ったとき、理学療法科のOTが手足のマッサージやリハビリのために病室に来ていた。
彼は、奥さんのことをいつも心配している。
奥さんも彼を思っている。
この1週間に撮ったというアルバムをみせてくれたが、どれもいい写真だった。
本人も奥さんも、いよいよであることを覚悟している。
命に寄り添い続け、その人がその人であり続けられるように、ぼくたちはどこまでも応援していく。

Dsc_0786

              *
食道と医の接合部に腺がんができた54歳の男性。
胃の全摘をしたが、再発した。
高齢の母親のことをとても心配している。
彼は、バイクが趣味で、元気なときは1000㏄のバイクに乗っていた。
体力がなくなって500㏄にしたが、いまはそのバイクにも乗れなくなった。
車が好きで、病院の玄関まで降りていき、玄関のいすに座って、車をみている。
              *
82歳の胃がんの女性は、ぼくの手をにぎって、さびしい、さびしいと訴えた。
人間は根源的にさびしい動物だ。
少しでも居心地がよくなるようにしたい。
              * 
この日の回診は、岡山大学、香川大学、北里大学の学生が同行した。
北里大学の学生は、都立西高の後輩。
西高で、ぼくの講演を聞いたことがあるという。
回診は、患者さんたちの思いに触れ、涙ながらの回診となった。
              *
夏休みということもあり、諏訪中央病院にはふだん以上にたくさんの医学生が研修にきている。
8月20、21日は全国から30人の医学生が集まり合宿があった。
総合診療の指導医山中克郎先生と、佐藤泰吾先生が中心になり、ほかの指導医たちが、
総合診療、家庭医、ジェネラリストの魅力を語った。
「医師に、患者の気持ちがわかるような教育をしているのか」と、ある方から怒りの手紙をもらった。
ぼくに手紙を出すのは「お門違いだと思っているが、どこへ出していいかわからず」に書いたという。
患者さんや、その家族を大事にすること。
患者さんの命だけでなく、夢や思いを大事にすること。
田舎の病院できることは限られているが、それでもあきらめるわけにはいかない。
医療が高度になるにしたがって、医療が冷たくなったといわれて久しい。
もちろん、高度医療の専門医のなかにもいい医者はいっぱいいるが、
患者の心を理解しようとしない医師もいることはたしかだ。
医療がやさしさを取り戻すには、どうしたらいいのか。
若い医学生たちに、忘れてほしくないことである。

|

« 2016年8月 | トップページ | 2016年10月 »