彼女の使命
『1%の力』(河出書房新社)のなかに、「さらにもう1%愛する人のために」というエッセイを書いた。
ある夫婦の間に男の子が生まれた。
2か月後、夫に胃がんと肺がんが見つかった。
愚痴を言わない夫で、競艇やパチンコなどやりたいことは何でもやりたいという夫。
妻も、子どもを育てながら、彼のやりたいことはすべてさせてあげようと腹を決めていた。
闘病が深刻になるなかで、彼女から手紙をもらった。
ぼくの本に救われた、という。
中国地方に講演に行くと、彼女は幼い子どもをつれ、夫の訪問看護師を伴って講演会場に来た。
闘病期間は4年。
37歳で夫は亡くなった。
その後、彼女との交流は続き、子どもにウルトラマンのおもちゃや絵本をプレゼントした。
小学校入学のときには、「小学一年生」を贈ったりした。
昨年、彼女は実家のある香川県の財田町に引っ越した。
そこで、子どもの名前をつけた「れいくんち」というケーキ屋さんを始めた。
先日、観音寺市に講演に行くとき、ふと彼女のことを思い出した。
ぼくは、だいたい「その日暮らし」。
前の日に「明日はどこへ行き、何をするのか」予定を確認して行動する。
観音寺市から20分ほどのところに財田町があることに気づき、
彼女に電話して、「明日、行くよ」と話した。
家中、大騒ぎになったという。
彼女のお母さんとも、闘病中、電話で何度か話したことがある。
訪ねていくと、れい君の小学校の校長先生や、彼女の高校時代の恩師までやってきた。
昔の仲間に囲まれている。
この人の特徴なんだと思う。
一生懸命生きているので、みんなが彼女を応援したくなるのだ。
彼女の言葉を思い出した。
「人は使命、課題、役割をもって生まれてくる。
父親がいなくても、息子をしっかり育てるというのが、私に与えられた課題」
香川に講演に行く機会があったら、れい君の通う財田小学校で、子どもたちに命の話をしたいなと思った。
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