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2019年4月22日 (月)

鎌田實の一日一冊(344)

「素手のふるまい アートがさぐる【未知の社会性】」(鷲田清一著、朝日新聞出版)

著者は日本を代表する臨床哲学者。
面白いところがたくさんあったが、「社会」について展開するくだりは特に面白かった。
日本社会の特徴は「世間」という概念。
「世間」から「社会」が発生してきたのだが、近年はその「社会」が消失して再び「世間」というあいまいなインターネット空間ができた。
その結果、「世間」がもっているリスク、思い込み、思い間違い、フェイク、ジェラシー、分断などが起きているようにぼくは勝手に解釈した。
「社会」には、自分以外の他者への好奇心と、社会全体を見渡す力がたぶん大切。
それが欠けているために「社会」から「世間」に先祖返りしているように思えてならない。

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被災地支援とアートも、この本のなかで強く展開されている。
「はじまりのごはん」というところで、311の後、停電になり冷凍庫を大放出して、毎日焼肉食べていたという話や
嫁が大事にしまっていた冷凍のウナギが満を持して放出されたなどという話が出てくる。
こんな話を聞くと、人間は強いなあと思う。
ぼく自身、震災の後、南相馬に行ったとき、まるで「災害ユートピア」と思えるような光景をみた。
体育館の避難所で、あたたかいおでんなどをふるまった後、
病院で管理栄養士をしていた鶴島さんの実家を訪ねたときのことだ。
お父さんは大工の棟梁で、お弟子さんがたくさんいたので、部屋がたくさんあった。
そこに被災した人たちが身を寄せていて、それぞれ食べ物を持ち寄って大宴会が始まっていた。
みんなで、自分の持っているものを出し合って、分け与えながら生きていく。
絶望や不安を感じながらの不思議な夕食の光景だった。
--いろんなことを考えさせてくれる哲学者の本だ。

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