鎌田實の一日一冊(371)
「緩和ケア医が、がんになって」(大橋洋平著、双葉社)
緩和ケア医ががんになり、気が付いたことを正直に書いている。
明るくて誠実なドクターだ。
2018年6月、消化管からの大量出血で緊急入院し、胃に悪性の腫瘍が見つかった。
消化管間質腫瘍「GIST(ジスト)」。10万人に1~2人といわれる希少がんだった。
手術で胃をほぼ全摘し、抗がん剤の治療を受けた。
100㌔あった体重は40㌔も落ちたという。
終末期のがん患者を支える緩和ケア医として、だれよりも患者やその家族に寄り添えるという自負があった。
しかし、そんなものは「幻想にすぎなかった」と言う。
患者になったその日から、次々と苦しみが彼を襲った。
そんな体験を朝日新聞の「声」欄に投稿した。
苦しみに直面しながらも、<でも私は生きている。「がんになってもよりよく生きる」とホスピス緩和ケアで言われるが、「よく」など生きられない。確実に弱っているからだ。でも、これからをしぶとく生きていく。全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送りたい>
力強い言葉である。
本の帯には、「あきらめる、そして頑張る」とある。
ぼくと逆のことを言っている。
大橋先生はこんな手紙をくれた。
「鎌田先生の『がんばらない』『あきらめない』にはとても心を動かされ、率先して緩和ケアの現場で実践してまいりました。
ただ今回、思いがけずがんを患って、手術、抗がん剤治療をしたのですが、残念ながら肝臓に転移。
決して経過も望ましくない現在、これまでどおりに生きられないのを実感いたしました。
だから、思い切って今までの自分をあきらめて、前以上にというより、前以下であったとしても、
これからの自分をがんばって生きようと思いました。
その思いを綴ったのが、『緩和ケア医が、がんになって』でした。
鎌田先生には拙著をお目通しいただけるだけで、甚だ光栄でただただ感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございます」
命のぎりぎりを生きているにもかかわらず、あたたかさを忘れないところが大橋先生のすごいとろ。
ぜひ、読んでみてほしい。
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