高瀬舟
森鴎外の「高瀬舟」を読み直してみました。
「安楽死」を扱った作品といわれています。
遠島送りなった罪人を、京都から大阪へと護送する「高瀬舟」。
奉行所同心の庄兵衛は、罪人・喜助を高瀬舟で護送しながら、その超然としたたたずまいを不思議に思い、「喜助、お前何を思っているのか」と声をかけます。
喜助は、わずかな支度金をもらい、もう生活に追われなくてもいいと喜んでいました。
物語は、喜助が罪人となった理由に及びます。
弟が刃物で自死しようとするも、死にきれず苦しみ、殺してくれと弟に懇願されます。
喜助は、深く挿し差し込むわけにもいかない、抜いたところで出血多量になり、弟は死亡します。
森鴎外は医者で、ドイツへ留学しています。
ドイツの安楽死についての論文を翻訳もし、積極的安楽死をこの時否定しています。
医療の役割は安らかな環境を作ることと、今の緩和ケアの考え方に近いことを述べています。
この小説の中では、何が正しかったのかは述べてはいません。
積極的安楽死を鴎外は否定しながら、何が正解かは読者に委ねたような気がしています。
そして、100年たった今も、同じ状態が続いています。
今回のALS患者の嘱託殺人を契機に、安楽死問題を議論するのは軽率です。
今は、死の質をもっと高め、残酷な死や悲しい死を少しでも減らすなかで、
命の自己決定について議論が始まるといいと思います。
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