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2020年9月24日 (木)

鎌田實の一日一冊(378)

「白い病気 マクロブロスの秘密」(カレル・チャベック著、栗栖茜訳、海山社)


昨日、カレル・チャペックの戯曲「白い病気」を紹介しましたが、この本に「マクロプロスの秘密」という戯曲も収録されています。
これも、約80年前に書かれた傑作です。

「マクロプロスの秘密」は、ヤナーチェクによってオペラにもなって、日本でも上演されています。
主人公は、300年前にから長寿の薬を使って生きています。
れが幸せなのかどうか。
長寿の薬の処方箋をめぐって議論が展開されます。

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337歳の主人公がこんなセリフを言います。
「長生きなんて我慢できないわ。肝心の魂が死んでしまい、アンニュイというか、何もかもが空虚でもういらない感じなの。
さっさと死んでしまえるからこそすべていいんじゃないか」
不老不死の秘薬をもらいたいと思ってきた人たちが、この言葉に揺れ動きます。
「例えばの話だが・・・・契約、年金、保険、給料、遺産相続権それに結婚、
どれもこれも300年も生きるという前提で作られてないんだ」
命や人権を大事にするヒューマニズムが根底にあって、300年も生きることができる薬が作られました。
命を大事にしているはずなのに、いくつまでもいつまでも生きることができると、
どこかで生きることを禁じなくてはならなくなってしまいます。
ヒューマニズムの矛盾が示されるのです。
なんだかシニカルでとても不思議な戯曲です。

翻訳者は、ぼくの5年ほど先輩の医師、栗栖茜さん。
海山社を作り、自分で翻訳した本を出版しています。

「ロボット」という言葉を作ったというチャペック。
チャペックの作品で「サンショウウオ戦争」、これはなかなかの傑作です。

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