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2021年5月 2日 (日)

鎌田實の一日一冊(392)

「クララとお日さま」(カズオ・イシグロ著、早川書房)

ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロが受賞後初めて書いた長編小説。
少女と AI ロボットとの心の交流を描いている。
AI の視点で描いているのがおもしろい。
深層学習は、学ぶだけで学んで覚えるだけでなく、学んだことが積み重なって新しい判断をする。
そこにある種の感情が生み出されていく。
AI がどうやって「共感」を覚えていくかが大きなテーマになっている。

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AIクララの「献身」もすごい。
とことん少女のことを考えるのであるが、こういう生き方もあるんだなと思わせてくれる。
心や、その人の本質を、クララは学ぼうとする。
その人の本質とは、その人を愛している周りの人たちの心の中にある一個一個の違いの中にあるのではないだろうか。
いくつもの仕掛けがされている。
AI のクララは、確率や合理性が組み込まれているのだが、信仰に近い感情を芽生えさせていく。
人間もこうやって他者の存在に気がつき、言葉を生み出し、共感や献身、信仰を作り上げてきたのかもしれない。

 

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