鎌田實の一日一冊(396)
「さいごのゆうれい」(斉藤倫著、福音館)
著者は少女漫画家で、たくさんの漫画をかいている。
「さいごのゆうれい」は、長編書き下ろし小説。
小学高学年からとなっているが、大人も興味深く読める。
小5の男の子が主人公。
おばあちゃんの田舎に行って、「ゆうれい」に出会う。
大袈裟に言うと、世界を取り戻すための四日間の物語。
トワイライトという「かなしみ」を消してくれる薬が広がり、
世界中が、「かなしみ」や「こうかい」を忘れてしまっていた。
誰も亡くなった人のことを思わないから、お盆でも、「ゆうれい」が戻って来られない。
誰も死んだ人のことを考えないからだ。
「かなしみ」って何だろう、と何度も繰り返される問いかけ。
本当に悲しいときには、人は微笑む。
ほっぺの筋肉を少しだけ上げる、それ以上できることがないから。
確かに、10年前、東北の被災地でこの何とも言えない、そうすることしかできない微笑みをたくさん見た。
「自分って、自分だけでは正しく見られないでしょ。
だれもがゆうれいのわたしたちを忘れてしまうと、ゆうれいはゆうれいを保てなくなるのよ」
そうやって、最後のゆうれいが少年のところにやってきて、「かなしみ」を取り戻すための戦いが始まる。
亡くなった人を忘れると、過去の「かなしみ」もなかったことになる。
そして、権力を持った人や政治家は、愚かなことを繰り返す。
「かなしみ」って結構大切なものだということが分かってくる。
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