じごぼうの物語
信州の山には、じごぼうというキノコが自生しています。
ぬめりがあって、ちょっと不気味なカオをしていて、八百屋さんになかなか出てこないキノコです。
最近は、蓼科へ上って行く、リゾートのお客さんたちが通る道沿いに一軒だけキノコ屋さんができて、買えるようになりましたが、
誰かが山に入って採らないと食べられないのです。
ぼくは、このキノコのことを時々エッセイに書いてきました。
流通に乗らないキノコですが、地元の人には親しまれてきました。
「最後に、もういっぺんじごぼうの味噌汁が食べたい」
死を間近にしたお年寄りたちから、よくそんな言葉を聞きました。
あるとき、緩和ケア病棟の看護師長さんが何回も山に入って、じごぼうを採ってきて、
患者さんたちに食べてもらいました。
おいしい、なつかしいと、とても喜ばれました。
その翌年、患者さんの息子さんが、感謝の気持ちを込めて、緩和ケア病棟にじごぼうを届けてくれました。
お金を出してもなかなか買えないキノコですが、
やさしさがやさしさを呼び、いいサイクルを生みました。
これがじごぼうの物語です。
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