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2024年10月 8日 (火)

鎌田劇場へようこそ!(566)

「私は憎まない」

2009年、自宅がイスラエル軍の砲撃を受け、3人の娘とめいが殺された。
壮絶な体験をしながらも共存の可能性を信じ、平和と人間の尊厳を追求するガザ出身の医師イゼルディン・アブラエーシュ博士に迫ったドキュメンタリー。
ぜひ、多くの人に見ていただきたい。

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イゼルディン博士が来日し、10年ぶりに再会した。
彼はガザ出身のパレスチナ人。イスラエルの病院で働く初のパレスチナ人の産婦人科医だった。
今はカナダのトロント大学で産婦人科医学のほか、心のもち方と人生について研究している。

3人の娘とめいは「亡くなった」のではなく、「殺された」という。
イスラエル軍の戦車は、狙いを定めて攻撃をしてきたという。
それでも彼は、ハマスのような考え方を否定している。
パレスチナとイスラエルが共存する方法があるとして、
「それでも私は憎まない」と言い続けている。

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生き残った三女は、右目を失明し、右手に大きな外傷を負った。
彼女もこう語っている。
「右目が見えなくても左目で社会で生きていく」
「右手が使えなくても、左手でペンをもつ練習をして字を書く。勉強をあきらめない」

姉妹が殺されたことを怒っているか、とインタビューで聞かれ、
「怒っている。でも、父と同じように憎まないようにしてきた」と答えた。
そして「今でも怒っている自分自身を怒っている」と述べた。
抑えようのない怒りを認めながら、そんな自分を抑えようとしているのだ。

2015年、パリの劇場で、「イスラム国」の多発テロにより観客89人が殺された。
そのなかに、小さな子どもをもつ母親がいた。
その夫が「ぼくは君たちを憎まないことにした」という本を書き、映画にもなった。

憎しみは、感染する疫病のようにまわりに広がり蝕んでいく。
「憎まない」ということは大事なことだと思った。

現在、東京・アップリンク吉祥寺などで公開中。

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